りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

イノセント(イアン・マキューアン)

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本格スパイ小説にもひけをとらないプロットですが、そこはマキューアンさんらしく、本質的には細やかな感情の揺れや心理の動きを描いた、上質な作品に仕上がっています。

終戦後のベルリン。世間知らずの英国人青年技師レナードは、東西を隔てる境界線を地下で越えて掘り進んだトンネルから、東側基地の通信を盗聴する英米共同作戦に参加することになります。国家機密に携わる緊張や、アメリカ人上司との国民的気質の違いに戸惑いを感じながらもプロとして仕事をこなしていたレナードは、年上の美しいドイツ人女性マリアと出会い、激しい恋に落ちてしまうのですが、その女性、結構ワケアリだったのです。

物語は、2人の関係を中心に展開されていきます。レナードは、マリアとの恋愛を通じて、自分の幼さ、暴力性、嫉妬心に気づかされます。粗暴なマリアの元夫から彼女を守ろうとして起きてしまった大事件と、盗聴作戦が危機に瀕する事態がシンクロして混沌に陥っていくあたりは、サスペンス調もたっぷりだけれど、やはり最大の問題は「信頼」でした・・。

最終章。壁の崩壊を目前に控えた30年後のベルリンで、レナードは何を思うのか。幕はまだ降りきってはいないようです。

2009/1