りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ローズ・アンダーファイア(エリザベス・ウェイン)

f:id:wakiabc:20201206130551j:plain

前著『コードネーム・ヴェリティ』の姉妹編であることは、表紙からも明らかです。もちろん本書だけでも独立した物語になっています。片や飛行士、片やスパイとしてドイツ占領下のフランスに潜入した親友どうしのマディとクイニーの物語である前著は、2つの視点から描かれたミステリ仕立ての作品でしたが、本書の主人公は英国補助航空部隊の女性飛行士としてマディの同僚であるローズです。

 

1944年9月。戦闘機をフランスの前線に輸送する任務に就いたローズは、帰路に突然行方不明になってしまいます。彼女はドイツ軍戦闘機に襲撃されて、ドイツ軍占領地に着陸させられてしまったのです。軍人ではないローズは戦争捕虜の扱いを受けられないため、送られた先はラーフェンスブリュック強制収容所。そこで彼女は、飢えや寒さに苦しみながら過酷な労働に従事しながら、収容所で出会った仲間と生き延びるための戦いを開始します。

 

既に敗色濃厚なドイツにあって、ナチス戦争犯罪の証拠を隠滅に走ります。人体実験に使われた「ウサギ」と呼ばれる少女たちの生き残りの虐殺を始めた収容所で、囚人たちが抵抗することなど可能なのでしょうか。ローズは、死刑宣告リストに載った友人を連れて収容所からの脱出を図るのですが・・。

 

前著でも同様でしたが、少女たちは怖いもの知らずのヒロインではありません。現実的な恐怖に押しつぶされそうになりつつも人間の尊厳を守り抜こうとする、絶望的な勇敢さが読者の心を打つ作品です。精神的な後遺症を受けながらニュルンベルグ裁判で再会した少女たちが、将来に向かってささやかな希望を灯すラストは、ローズが超えたアルプスの景色のように美しいのです。

 

2021/1