りぼんの読書ノート

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深夜特別放送(ジョン・ダニング)

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死の蔵書などの書籍にまつわるミステリが多く紹介されている著者が、戦時下に興隆を迎えたラジオ局を舞台にして、戦時下の強制収容というテーマに向き合った重層的なミステリ作品です。

1942年。愛するホリーへの失恋の痛手から放浪生活を送っている小説家の青年デュラニーは、些細なことで逮捕されたものの、ホリーが窮地に陥っているとの知らせを受けて脱獄。しかし父親も恋人も失ってホリーは故郷を捨てて、ニュージャージーの海辺の街のラジオ局専属の歌手になっていました。

偽名を使ってラジオ局の脚本家として雇われたデュラニーは、そこで才能を開花させます。折しも届き始めたナチス強制収容所の噂や、彼自身も西海岸で目撃した日系人収容所に義憤を覚えたデュラニーは、強制収容を批判するテーマで、連続ドラマの執筆を始めます。しかしそのテーマの中に、ホリーの父親が殺害された事件の真相が潜んでいたのです。

強制収容所の歴史は、1900年のボーア戦争に始まったとのこと。英軍司令官のキッチナーが、オランダ系ボーア人や先住民黒人を強制収容して焦土作戦を展開。収容所で2万人が亡くなったことに加えて、家や農地を失った者たちが悲惨な生活に追い込まれています。生き地獄を逃れてアメリカに移住してきた元ボーア人の老人が、イギリスへの憎悪からドイツのスパイになっていた・・というのがメインストーリー。

一方で、すぐにテレビに取って代わられることになるラジオの短い繁栄期の様子や、それに関わる人たちの情熱や、脱獄者という身分を隠したまま成功を収めていく主人公の行く末への哀感など、メインストーリーと直接かかわらない部分の展開と描写が秀逸でした。あまり期待しないで読み始めたのですが、こういう本に出会えることが読書の醍醐味なのです。

2017/10