りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アーダの空間(シャロン・ドデュア・オトゥ)

不思議な小説です。アーダの名を持つ4人の女性たちの生と死が、500年の時空を超えてループする物語。植民地時代が始まろうとしている1459年のアフリカ西海岸の村で、生後間もない子を失って悲嘆に暮れる若い母、1848年のロンドンで小説家ディケンズと逢瀬を重ねる数学家の伯爵夫人。1945年の強制収容所慰安婦をさせられている女性。そして現代のベルリンで差別に苦しむ大学生。

 

著者の分身であろう最後のひとりを除いて、アーダたちは男たちの暴力によって痛ましい死を迎えます。アーダの輪廻を司る神様や、アーダの切れっ端のような道具たち(ほうき、ドアノブ、部屋、パスポート)が見守る中で、最後のアーダは負の輪廻から逃れ出ることができるのでしょうか。彼女は「Me,We」と名付けられた最終章で、自分が何者であるのかとの理解に行き着くのですが。

 

差別や抑圧からの開放をメインテーマとする本書において特徴的なのは、登場人物たちの属性がはっきりと書かれていないこと。肌の色はもちろん、アーダたちと姉妹的な関係を結ぶ者たちや、繰り返し現れるウィリアムたち(ギリェルメ、ヴィルヘルム、ウィリアム)を除いては、性別すら不明な者も多いのです。まるで、あらゆる者が何らかの差別を受けていることを強調しているよう。著者が1972年にロンドンで生まれてベルリン在住している、ガーナ出身の両親を持つ女性であるとの予備知識など持たないほうが、本書を楽しめるのかもしれません。

 

2023/11