りぼんの読書ノート

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ジェーン・スティールの告白(リンジー・フェイ)

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19世紀の英文学を代表する『ジェーン・エア』は、恵まれない少女時代を過ごした孤児が、家庭教師として雇われた屋敷の主と紆余曲折の末に結ばれる物語です。かなり地味なヒロインですが、当時としては自立した女性像を描いたものとして頑迷な男尊主義者から批判を浴び、シャーロット・ブロンテが強烈な反論をし続けたことで知られています。その反論に触発された著者は、『ジェーン・エア』をモチーフとして、さらに強烈な女性像を創り上げました。なにしろこちらのジェーンは「鋼鉄(スティール)」であり、やむを得ない事情があったとは言いながら連続殺人犯なのですから。

 

両親を失った後で伯母の虐待に耐えながら育ったジェーンは、9歳の時に彼女に淫らな行為を迫る従兄を正当防衛で殺害。逃げるようにして向かった寄宿学校では、校長の陰惨な虐めに耐えた6年間を過ごした後に、美しい女性教師にセクハラを仕掛けた校長を殺害してロンドンに逃亡。そこで文章で身を建てる術を身に着けますが、知人の女性にDVを仕掛けた男性を殺害して、生まれ育った屋敷に戻ります。伯母は既に亡くなっていて、屋敷を相続したというチャールズ・ソーンフィールド氏が被後見人の少女サジャラのために家庭教師を募集していたのです。

 

ソーンフィールドは『ジェーン・エア』のロチェスターに相当する人物ですが、彼もまた秘密を抱えていました。インドのパンジャーブに渡って財を成した両親のもとに現地で生まれた英国人でありながら、シーク教徒つぃて育ち、シーク戦争で亡くなった友人の娘を引き取って育てているのですが、なぜか東インド会社の幹部から狙われている様子。そして彼の使用人たちはパンジャブから脱出した現地人であり、執事のシンに至っては、彼の幼馴染の親友だというのです。

 

人種差別や女性差別とは無縁な自由人であるソーンフィールドに惹かれたジェーンは、彼を守るために行動を起こすのですが、果たして彼の秘密とは何だったのでしょう。そして彼女は、自分の経歴を正直に彼に告げることができるのでしょうか。その過程で知ることになった彼女の出生の秘密も意外なものでしたし、彼女の少女時代を知る警部も登場するのですが、ジェーンは罪に問われることになるのでしょうか。

 

「ミス・エアとミスター・ニクルビー」に捧げられた本書は、19世紀イギリス文学へのオマージュの集大成ともいえる作品でした。2人の主人公以外にも、伯母、校長、警部、弁護士、瓦版発行人、娼婦などの登場人物たちは、ディケンズやエリオットやハーディやフォスターの小説の登場人物たちを思わせますし、ジェーンの親友に至っては名前からして「レベッカ」なのですから。

 

本書を読んだのは、著者の「ニューヨークの最初の警官」の第3部を待ちわびて検索していた際に見つけたからです。『ゴッサムの神々』と『7は秘密』の続編を楽しみに待っているののですが、翻訳は出版されないのでしょうか。原書は2015年に出版されているのですが。

 

2020/10