りぼんの読書ノート

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チビ犬ポンペイ冒険譚(フランシス・コヴェントリー)

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飼い主が転々と変わった子犬のポンペイ狂言回しとして、18世紀イギリスの人々の気質や風俗や風習などを描いた小説です。動物を主人公として人間社会を風刺した小説というと、夏目漱石の『吾輩は猫である』を思い浮かべますが、丸谷才一氏は「漱石はロンドン留学中に本書を読んで影響を受けたのではないか」と推理しているとのこと。本書は「漱石生誕150年」を記念して2017年に出版されました。

イタリア・ボローニャの高級娼婦の家で生まれたポンペイは、欧州大陸グランドツアー中の若い英国紳士に貰い受けられて、ロンドンへ。その後、貴婦人、庶民、学生、学生などの飼い主の間を転々とする数奇な運命をたどります。その背景には、愛玩犬というものが当時は贅沢なものであり、一部の貴婦人を除いてはあまり大切に扱われなかったということもあるようです。

上流階級の者たちのマウンティング、中間層が上辺をとりつくろう様子、不毛な宗教論争、無責任な政治談議、下層階級の悲惨な生活、夫婦喧嘩、恋愛模様などの当時の世相が、ユーモアたっぷりに描かれる様子は、やはり『猫』を彷彿とさせてくれます。本書の中に、冷静沈着で賢い老猫が登場する1章がありますが、「名前のない猫」が寿命をまっとうしたなら、このような猫になったのかもしれません。もっともこちらはメス猫でしたが。

2018/3