りぼんの読書ノート

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コードネーム・ヴェリティ(エリザベス・ウェイン)

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2部構成になっている本書の第1部は、ナチス占領下のフランスでゲシュタポに囚われたイギリス人女性が綴る手記からなっています。拷問をやめる代わりにイギリスに関する情報を記すよう強制された手記で、書き手の女性は執拗に自分の本名を記そうとはしません。代わりに、彼女の親友である女性パイロットのマディの物語が、小説のように綴られていくのです。

それは、マンチェスター近郊の小都市で生まれたユダヤ系の少女が飛行機に惹かれ、やがてイギリス軍補給部隊の操縦士となっていく物語。そしてドイツ語にも堪能なスコットランド貴族の娘で無線技術者のクイニーと出会って、戦時下のイギリスで親友になっていく物語。実はクイニーこそが書き手自身の変名なのですが、なぜ彼女はそのような物語を記したのでしょう。

その答えは、同じ飛行機でフランスに不時着した後にレジスタンスに匿われているマディが語る、第2部になって明らかになって行きます。クイニーは彼女に同情的だったフランス人女性監視員を経由して、この手記がマディとレジスタンスに渡ることを想定していたのであり、全く違う視点から見ることで、謎めいた手記の目的が判明していくのです。そして同時に、自身を待つ過酷な運命を知りながらも、クイニーが人間の尊厳を必死で守ろうとしていたことにも気づかされるのです。

第1部で親友となった少女たちが「こわいものの教えっこ」をする場面があります。戦争の中で起こり得る現実的で具合的な恐怖の順位が、少女らしい観念的で抽象的な恐怖よりも次第に上位に位置するようになっていくことは象徴的です。しかも彼女たちは、そのような恐怖に立ち向かえる強さはないと思っているのです。

そんな女性たちが示した勇敢さに心を打たれると同時に、そのような試練を課すことになる戦争の悲惨さが、ミステリ仕立ての本書を貫いています。2012年にエドガー賞ヤングアダルト小説部門の最優秀作品となった作品ですが、より上の世代の方にもお勧めの1冊です。

2018/1