りぼんの読書ノート

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火の柱 下(ケン・フォレット)

16世紀のイギリスを中心とする物語はクライマックスを迎えます。イギリスのカトリック勢力ネットワークを築き上げたロロは、彼らを反エリザベス蜂起に立ち上がらせるために、幽閉状態にあるスコットランド女王メアリーに近づきます。メアリーが反逆に加担している証拠を掴んだウォルシンガム郷とネッドは、エリザベス女王にメアリーの処刑を裁断するよう迫りますが、スペイン国王フェリペ2世が率いる無敵艦隊の驚異も高まっていました。

 

アルマダの海戦に至る経緯は単純なものではありません。私掠船による海賊行為や、オランダの対スペイン反乱への支援によって、イギリスとスペインはその数年前から事実上の戦争状態にあったわけです。しかしメアリー処刑によってカトリック勢力の結束は高まり、ローマ教皇はスペイン軍のイギリス侵攻を十字軍として認定。フランスやイギリス国内のカトリック勢力も反エリザベスで結束したわけですが、やはり勝敗を決したのは両国艦隊による一大決戦だったわけです。オランダ出国後にドレイク率いる武装商船で砲術長を務め、今では2隻の武装商戦を率いるようになっていた、ネッドの兄バーニーもイギリス艦隊の一翼を担います。

 

歴史が示しているようにアルマダの海戦はイギリスの勝利に終わり、エリザベス女王は伝説となりました。物語はエリザベス死後の後継者争い、後を継いだジェームズ1世の暗殺計画であるガイ・フォークス事件と続いていきますが、もはや政治的にはエピローグのようなもの。しかし物語的には、その過程で語られるネッドとロロの最終的な対決や、ネッドとマージョリーの紆余曲折を経た愛の成就がクライマックスとなっていきます。

 

イギリスの歴史小説で最も人気があるのがエリザベス女王時代ですね。フランスではユグノー戦争からブルボン朝誕生に至るこの時代が、フランス革命時代に次いで人気があるようです。日本でもほぼ同時期の戦国時代が一番人気であることは、偶然ではなさそうです。本書は「大聖堂シリーズ」の第3部にあたりますが、イギリスでは次作も既に刊行されているとのこと。第1部の舞台となった12世紀からさらに遡った時代が描かれたとのことですが、翻訳が出版される前に第1部と第2部も再読しておきましょう。

 

2022/8