りぼんの読書ノート

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ブギウギ(坂東真砂子)

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ドイツの無条件降伏から日本敗戦までの間、日本在住のドイツ人が捕虜待遇であったことは知りませんでした。とはいえ収容所に送られたわけではなく、箱根など非戦闘地域の旅館で軟禁されていたようです。

日本近海で沈められたUボートの艦長が箱根で変死し、事件を捜査する海軍法務官の通訳として雇われたのは、ドイツ語学者の法城でした。それをきっかけとして彼は、敗戦前後の「夜と霧」を彷徨うことになります。いったんは自殺として幕引きが図られたものの、戦後、占領軍によって調査再開。事件の背後には、祖国を失ったナチスの陰謀があったというのです。

アルゼンチンで第三帝国を復興させようと試みたナチスの残党。「絶滅収容所」で人体実験を行っていた軍医。新兵器の図面を運んでいたUボート。死んだ潜水艦長が握っていた秘密を受け継いでいるのは殺人者なのか、それとも・・。陰謀を追う側もGHQやCIA、さらにはソ連のスパイなどが入り乱れ、敵も味方もわからない中で法城は調査を進めます。

重要な手がかりを持つ人物としてクローズアップされたのは、箱根の旅館で女中をしていた安西リツでした。若いドイツ水兵に愛を囁かれて舞い上がり、水兵の死後も彼からプレゼントされたロケットを大切に抱いて上京。歌が好きだったリツは戦後の東京で、女中からメイド、ホールのウェイトレスへと転々と職を変えていき、ついにジャズ・シンガーへの夢を実現させようとしていたのですが、彼女にも危険が迫ります。

事件に巻き込まれた法城は、敗戦国にも戦勝国にも「暗部」があることを思い知らされます。それに引き換え、リツをはじめとする女性たちのたくましいこと。過去を捨てて新しい人生を掴もうとするリツの生き方は、ジャズのリズムにも似て軽快なのです。「カモン・ブギウギ♪」。

2013/6