『虎の牙』でルパンを引退させた著者ですが、それ以降もシリーズが続いたのは出版社の要請なのでしょうか。本書では、「ヤング・ルパン」が「怪盗紳士」への道を歩み始めるきっかけとなった事件が描かれます。
ルパン20歳、ラウール=ダンドレジーと名乗り、美少女クラリスと将来を誓い合っていますが、父親のデティーグ男爵には結婚を認めてもらえません。しかし、その男爵が怪しげな仲間とともに1人の女性を殺害する計画を盗み聞きしたルパンは、彼女を救い出します。
その女性こそが「カリオストロ伯爵夫人」ことジョゼフィーヌ=バルサモ。年上ながら聖女のようなあどけない容貌を持ち、その実体は希代の女盗賊。男爵の仲間が言うには「25年前と同じ顔」どころか、数百年前の絵画にも描かれていた女性と同一人物だという美魔女。たちまちクラリスを忘れ、ジョゼフィーヌとの情事に溺れたルパンでしたが、彼女とは「七本枝の燭台」の謎が示す修道院の財宝をめぐって、男爵一味も交えた三つ巴の死闘を展開することになるのです。
本書の魅力は、秘宝の存在や、「七本枝の燭台」が「北斗七星」と結びついていく謎解きよりも、若きルパンがいかにしてジョゼフィーヌの魔力から脱したかにあるのでしょう。「盗みはしても殺人はしない」というルパンの義侠心に抵触したことはひとつの理由ですが、いったんは忘れられたクラリスの存在が大きかったようです。
クラリスは決して、可愛いだけのお嬢様ではありません。「ルパン3世・カリオストロの城」のヒロイン造型にも影響を与えているように思えます。短い生涯を終えるまでではあるものの、ルパンとの愛をまっとうしただけのことはあって、芯の強い女性なのです。
はじめはルパンを軽くあしらっていたジョゼフィーヌでしたが、やがてルパンを本気で愛するようになっていました。それなのにルパンに去られ、一度は手にした財宝も奪われ、冷静に考えれば気の毒な女性です。悪女になったいきさつにも気の毒な事情がありますし。しかし悪女は怖い。悪女の深情けは恐ろしい。彼女は、ルパンの全人生に及ぶ呪いをかけることになるのですから。詳細は『カリオストロの復讐』にて・・。
2013/6