りぼんの読書ノート

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ちいさな国で(ガエル・ファイユ)

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1982年にブルンジで、フランス人の父とツチ族ルワンダ難民の母の間に生まれ、ブルンジ内戦中の1995年にフランスに移住した著者は、フランスで人気ラッパーになりました。と同時に「ブルンジでは自分が白人だと、フランスでは自分が黒人だと感じさせられた」青年は、作家としてもデビューして成功を収めたのです。自伝的な要素を含む本書は、「暴力的な力で奪われた子ども時代を再創造する試み」のようです。

 

10歳の少年ギャビーの少年時代は恵まれていました。家族は裕福で、一家で湖畔の村にドライブしたり、悪ガキ仲間とマンゴーをくすねたり、誕生パーティにはビールを目当てにやってきた近所の人たちと踊りまくったりと、楽しい思い出に満ちていたのです。しかし一方では、母親の兄弟がルワンダ愛国戦線に加わるために旅立っていったり、大統領選挙が近づくに連れて民族間の争いが目立ってきたりと、不穏な空気が強くなっていきます。

 

そして1993年の選挙で勝利を収めたフツ族の大統領が暗殺されて、内戦が起こります。翌年には隣国ルワンダで大虐殺が起こって両国の混乱は収まるところを知りません。親族が皆殺しにされたと知った母親は精神を病んで家を出ていき、ギャビーと妹は父親とともに無法地帯となった街を出てフランスへと逃げ出すのです。

 

本書は、20年以上たって青年となったギャビーがブルンジに帰国するところで終わります。しかし著者とギャビーの物語はまだ中途なのでしょう。本書は「どんなふうにはじまったかは覚えているが、どんなふうに終わるかはわからない」というギャビーのつぶやきで閉じられるのですから。ちなみに著者は現在、妻子とともにブルンジに在住しているとのことです。

 

2021/1