りぼんの読書ノート

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ハロー、アメリカ(J.G.バラード)

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『22世紀のコロンブス』との邦題で1982年に出版された作品が、このたび原題にて新装再販されたのは、リドリー・スコット監督によって映画化が進められているからなのでしょう。

気候変動と石油枯渇と原発事故の結果、アメリカが放棄されてから100年後の22世紀。イギリスを出港した探検隊が蒸気船でマンハッタンに到着します。彼らはそれぞれ「アメリカン・ドリーム」を胸に秘めた船長、科学者、密航者など。しかし彼らの目の前に広がっていたのは、果てしない無人の大砂漠でしかありませんでした。幻のアメリカを探し求める一行は、西海岸を目指して苦難の旅に乗り出します。

まず彼らが出会ったのは、アメリカにとどまって近代文明を失った「原住民」たち。どうやらニューヨークにはエグゼクティブ族、ボストンにはプロフェッサー族、ワシントンにはビューロクラット族、シカゴにはギャングスター族を名乗る集団が残存しているようなのです。そしてラスベガスにたどりついた一行は、マッドサイエンティストを使役する狂人が支配する「合衆国」に迎えられるのですが・・。

核を搭載した巡航ミサイル原発が、見捨てられたまま残っているというのは不気味ですね。その一方で、マッドサイエンティストが作り上げた歴代大統領のロボットはコミカルです。著者の雰囲気にはそぐわない「B級SF」なのですが、イギリス人である著者がアメリカに抱いている感情が、本書の中に込められているのでしょう。著者は2009年に亡くなっていますが、もし現在のアメリカを知って書き直すを知ることがあるなら、もっと辛辣な作品になるのではないでしょうか。

2019/4