りぼんの読書ノート

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また、桜の国で(須賀しのぶ)

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新年1作目のレビューは、2016年下半期の直木賞候補に選ばれた、元気のいい作品から始めましょう。神の棘ではナチス時代の宗教者、革命前夜ではベルリンの壁崩壊前後の東ドイツへの音楽留学生を主人公として、歴史の変動期における個人の生き方を描いてきた著者が次に選んだ舞台は、第二次大戦期のポーランドでした。

第二次大戦前夜、ポーランド日本大使館に外務書記生として着任した棚倉慎が視点人物。日本に亡命した白系ロシア人を父に持ち、少年時代にシベリアで保護されていったん日本に送られたポーランド孤児たちとの交流経験がある慎は、戦争回避のために奔走。しかし遂にドイツがポーランド侵攻を果たしたとき、彼は人間としての生き方を真に問われることになるのです。

もとより、枢軸同盟国である日本の一介の書記生ができることには、限度があります。ナチス・ドイツソ連によって分割占領されたポーランドが主権を喪失した後は、慎もブルガリアに異動させられてしまいます。カティンの森事件ワルシャワ・ゲットー蜂起と鎮圧、絶滅収容所の存在、近隣国での杉原千畝の活動などの噂を聞くたびに、後ろめたい思いをしていたのですが・・。

タイトルは、民族や国籍の壁を超えて数奇な運命で結ばれた3人の青年が、ワルシャワ蜂起への参加に際して日本での再会を誓った言葉です。ワルシャワ近郊まで迫っていた赤軍に傍観された結果、20万人もの犠牲者を出した絶望的な蜂起に、彼らはどのようにして加わることになったのか。彼らをどのような運命が待っていたのか。スケールの大きな反戦小説です。ショパンの「革命のエチュード」を聞きながら読むことをお勧めします。

2017/1