りぼんの読書ノート

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天保十四年のキャリーオーバー(五十嵐貴久)

「〇〇年の××」というのは、デビュー直後の著者が好んで用いていたタイトルです。この種のタイトルを用いたのは、『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』以来16年ぶりでしょうか。

 

天保改革の末期。南町奉行となっていた鳥居耀蔵に復讐を企む者たちの物語。鳥居に冤罪をかけられて自害した前の南町奉行矢部定謙の息子の鶴松。手鎖刑を受け江戸から追放されていた七代目市川團十郎。譴責を受けて亡くなった柳亭種彦の娘にして共作者でもあったお葉。寄席を潰されて行き場を失くした二代目立川談志老人。彼らの企みは、金の亡者であった鳥居から有り金全てを奪うことでした。

 

江戸時代、寺社が勧進のために発売した富籤は、爆発的な人気を博していました。その裏ではノミ屋にあたる陰富もさかんに行われていたとのことですが、もちろん認められてはいません。それを取り締まる側の町奉行である鳥居が、なんと陰富を主催していたのです。参加するのは選ばれた富裕層ばかりであり、一口あたりの金額は大きいものの賭け口は少ないので当たりが出ないまま、キャリーオーバーされていた額はなんと百万両。奉行所の地下に溜め込まれているはずの大金を奪うため、彼らは計画を練るのですが・・。

 

首尾よく運びそうになりながら、大ハプニングでピンチに陥り、ギブアップ寸前で大逆転というのは、この種の物語の常道ですね。それをハラハラドキドキの展開に持ち込むのが著者の力量です。もちろん成功しています。それにしても鳥居には敵が多かったのですね。最後には思わぬ人物まで登場します。ところで富籤が全面禁止される直前の最後の1回は湯島天神で行われたとのこと。その後、戦後に宝くじとして復活するまで103年もの間、日本には富籤が発売されることはなかったのです。

 

2023/9