りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

華に影 令嬢は帝都に謎を追う(永井紗耶子)

2023年7月に『木挽町のあだ討ち』で直木賞を受賞した著者は、時代小説や歴史経済小説を専門としているようですが、このような楽しい作品もあったのですね。本書は、明治期の華族令嬢を主人公とする異色ミステリです。『帝都東京華族少女』で出版された作品ですが、文庫化に際して大幅に加筆訂正され、タイトルも替えられたとのことです。

 

明治39年。千武男爵家の令嬢・斗輝子は、書生の影森怜司を供にして、政府重鎮の黒塚伯爵家で行われた夜会に祖父の名代として出席。しかし夜会の最中に黒塚伯爵が何者かに毒殺されてしまいます。祖父が夜会を欠席したのは、事件が起こることを知っていたからなのでしょうか。不当な疑いをかけられた千武家の名誉のため、斗輝子と怜司は事件の真相を調べ始めます。

 

犯人捜しと並ぶ大きな謎は、生意気な書生の影森の出生の秘密です。2つの謎はリンクしているのですが、斗輝子はもとより、影森自身もそのことに気付いていません。やがて浮かび上がってきたのは、身分に縛られてままならぬ生き方を余儀なくされた女性たちが抱えた秘密でした。ひとりは黒塚伯爵に虐げられている正妻であり、もうひとりは影森の亡き母なのですが、2人の間にはどのような関係があったのでしょう。そして斗輝子の祖父である千武男爵は、彼女たちとどのような関係があったのでしょう。

 

華やかさとともに暗い影を背負う上流階級社会に染まらぬようにとの願いが込められた名前を持つ「斗輝子」が、自分の人生を切り開いていく物語も読んでみたいものです。

 

2023/9