りぼんの読書ノート

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悪い麗人(堀川アサコ)

『伯爵と成金』に続く「帝都マユズミ探偵研究所シリーズ」の第2作です。伯爵家の次男坊ながら無報酬で探偵を請け負う酔狂な黛望と、彼の助手を務める成金の不良息子にして恋多き美男の牧野心太郎のコンビは、どのような事件に巻き込まれていくのでしょう。

 

麗しき大正ロマンは過去のこと。日本帝国が満州進出を進める戦争前夜の時代において、帝都東京には退廃の薫りが溢れ、軍国主義の萌芽が見られるようになっています。その中で謎めいた事件が次々と発生。カフェーの女給が殺される場面を映した活動写真の噂、男を喰い殺す南洋の魔女の誘惑、華族の子息と絶世の美少年の男色スキャンダル、街中に現れる巨大な肉塊の謎・・異色の探偵コンビは怪事件の背景に何を見出すのでしょうか。

 

敵役である渡辺男爵と養子・祥也が軍国主義を代表する存在である一方で、名女優を母親に持つ天才児・浦川都加砂は退廃を象徴しているのでしょう。前作で未解決であった謎がひとつ解けた一方で、麻薬「太虚精」の行方など新たな謎も発生。「また何か起こるぜ」という黛の言葉で終わる本書は、もちろん第3作が書かれる前提ですね。緩やかなヒューマニズムに満ちた「幻想シリーズ」とは異なり、江戸川乱歩を思わせる作風の本シリーズからも目が離せなくなりました。

 

2023/6