りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

銀行狐(池井戸潤)

1998年に『果つる底なき』でデビューした著者が2001年に出版した作品ですから、まだ「半沢直樹シリーズ」をはじめとする痛快な作風には至っていません。銀行を舞台とした犯罪ミステリですが、時代を反映して手口もまだ古典的。それでも著者に特有の正義感は既に現われています。

 

「金庫室の死体」

なんと倒産した銀行の金庫室から発見されたのは老婆の死体。変死事件を担当した刑事は、被害者が巨額の現金を引き出した銀行の大口預金者であったことに気付きます。消えた現金の行先は、倒産による失業の恐怖を抱えた銀行員とどのように関係していたのでしょう。殺人に至る動機とは思えなかったのですが・・。

 

「現金その場かぎり」

衆人環視のもとで2度に渡って銀行の窓口から消えた大金は、どんな手段によって誰のところに渡ったのでしょう。銀行が景品によって預金者を引き寄せていたバブル後遺症時代を思い出しました。

 

「口座相違」

橋本商事宛ての振り込みが、誤って橋本商会なる会社の口座に送金されてしまいました。しかし橋本商会という会社は、いつの間にか所在不明になっていたのです。最大の被害者と思われた人物が実は犯人だったという

真相は、銀行ミステリとして今でも秀逸な発想に思えます。

 

「銀行狐」

「狐」を名乗る人物が銀行や銀行幹部を脅迫。単なる脅しではない証拠として、発火事件や注文操作による損害も発生。調査にあたった総務部特命の指宿修平は、事件の背後に銀行への深い怨恨を発見します。変額保険に関する訴訟事件が相次いだころの作品ですね。なお指宿修平は翌年の『銀行総務匿名』でも主人公を務める人物です。

 

「ローンカウンター」

連続する婦女暴行事件に関係する共通点は何だったのでしょう。「金庫室の死体」と同様に警察による捜査事件ですが、銀行員によるヒントが事件を解決に導きます。この銀行員・伊木は、デビュー作『果つる底なき』でも重要な役割を果たしていましたね。

 

2023/6