りぼんの読書ノート

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続巷説百物語(京極夏彦)

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「シリーズ中の最高傑作」と思っていましたが、再読してその感を一層強くしました。あやかし仕立ての仕掛けの大きさもさることながら、又市、おぎん、治平、小右衛門ら、二つ名を持って闇の世界に生きる男女の哀切が、ひしひしと感じられてくるのです。

「野鉄砲」八王子同心である百介の兄が登場。額に小石をめり込ませた同僚の死体の謎説きを百介に依頼するのですが、その事件は、事触れの治平と、その義父であった海賊上がりの盗人・野鉄砲の島蔵の痛ましい過去に繋がるものでした。

「狐者異」何度打ち首になっても生き返って悪事を行なう祇右衛門の正体は、なんと人間ではなかったのです。初代の祇右衛門は義理堅く人情に篤い人物だったのですが・・。おぎんの過去が明らかになります。

「飛縁魔」祝言の当日に姿を消した女を忘れられずに腑抜けになった名古屋の豪商。その女・白菊には悲しい過去があったのですが、12年前に京で亡くなっていました。では、名古屋に姿を現わした白菊は、既にこの世のものではなかったのでしょうか・・。

「船幽霊」育ての親である御燈の小右衛門のルーツを探して土佐に入ったおぎんは、平家の末裔を名乗る川久保一族に、妖怪からみの冤罪を仕掛ける藩の陰謀に気付きます。火薬の秘密を守る川久保一族の出身だった小右衛門にも、悲しい過去があったのです。

「死神―或は七人みさき」本書のクライマックスとなる作品です。残虐の限りを尽くす藩主によって人心が荒廃した北林藩の秘密を解き明かし、悪人どもを一掃して藩を立て直すという、大名家を相手取った大仕掛けが炸裂します。小右衛門の元許婚の娘が北林藩に嫁いでいたという因縁もあったのです。

「老人火」エピローグのような作品です。あれから4年、戯作者として世に出た百介は又市らとの交流も途絶えていましたが、小右衛門の最期を見届けることになります。

本書で暗示されているだけの、悪徳老中を相手にする「千代田の鼠退治」は、どこかで書かれるのでしょうか。でもそれを書いたら、シリーズが本当に終わってしまいそうです。

2010/11再読