岸本佐知子さんが編んだ『変愛小説集2』に収録されている「妹」を含む短編集。「人はみな孤独だ、だが孤独を通じてつながることができるのかもしれないという裏返しの希望」もあると、後書きで著者も述べているように、全ての作品を貫いて「孤独から逃れるための足掻き」が描かれます。
「水泳チーム」 水が一滴もない土地で、老人たちに洗面器一つで水泳を教えようとする娘。
「モン・プレジール」 エキストラ出演した映画で無言の食事をして以来、会話を失った男女。
「ラム・キエンの男の子」家から27歩進んだところで足が止まってしまった女性。
「マジェスティ」 英国のウィリアム王子をめぐる妄想で頭がはちきれそうな中年女。
「妹」 会ったこともない、しかも存在していない友人の妹に本気で恋焦がれる老人。
「2003年のメイクラブ」 もしお隣さんがこっちを見たら生きようと決意する女性。
「ロマンスだった」 友人を勇気付けようと肩を叩いてリズムを刻んでしまった女性。
「あざ」 顔のあざをとって、何かを失ったように感じる女性。
「何も必要としない何か」 ここが理想の世界ならみなしごのはずだったと思う少女。
・・・それぞれの物語の登場人物たちが悩んでいることは、決して奇妙なことではないのです。自己嫌悪であったり、生活苦であったり、性の問題であったり、むしろありふれた悩み。でもそれが彼女の手にかかると「その人だけのかけがえのない大切な悩み」のように思えてくるのが不思議なところ。映画監督でもある著者が描く世界は、「妄想」の枠内に収まらず「奇行」の域に達していて、ビジュアルな印象を与えてくれます。
2010/11