りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

伯爵と成金(堀川アサコ)

「幻想」シリーズをはじめとする「少し妖しい物語」が得意な著者ですが、最近ではジャンルを超えた作品も増えてきました。「帝都マユズミ探偵事務所」の副題を有する本書も「妖(あやかし)」の登場しない本格ミステリ小説ですが、未完ですので断言はできません。

 

大正ロマン軍国主義へと切り替わろうとしている昭和6年。無料で探偵をするという奇妙な伯爵家の次男坊・黛望の助手になってしまったのが、強欲成金一家の放蕩息子の牧野心太郎。非道の父親である牧野求助が殺害された事件の容疑者とされた心太郎が、黛氏に救いを求めたことがきっかけでした。そして互いに係り合う不思議な事件が起こり始めたのです。

 

牧野求助を殺害したのは、幼い頃に長兄を殺害された恨みを抱いた異父兄の徹だったのでしょうか。つきあった男性が次々と非業の死を遂げる「死神令嬢」の渡辺一族にはどのような秘密が隠されていたのでしょうか。嘘八百を書き連ねる「文通ガール」として男を手玉に取る風子は、被害者なのか、加害者なのか。心太郎の不良時代の仲間のジュンコは、玉の腰に乗ったはずなのに何故殺害されてしまったのでしょう。義母となった大女優の浦川夫人は、不肖の息子に見切りをつけたのでしょうか。そして闇に蠢く暗殺団「黒影法師」とはどのような存在なのでしょうか。

 

実はエピローグまで終わっても、全ての謎は解き明かされていません。それどころは第1話の牧野求助殺人事件の真相すら再び闇の中に戻ってしまったようです。続編が期待されますが、その実現は本書の評判次第なのかもしれませんね。

 

2022/9