りぼんの読書ノート

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豊饒の海1 春の雪(三島由紀夫)

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「三島美学」を極めた「豊饒の海4部作」の第1作は、大正初期の大悲恋の物語。

維新の功臣を祖父にもつ侯爵家の嫡子で学習院に通う19歳の松枝清顕は、幼馴染の伯爵令嬢・綾倉聡子に特別な想いを抱いているが故に、彼女に翻弄されていることに耐えられません。実は清顕を翻弄しているのは聡子ではなく彼自身の想いなのですが、そこに思い至るほど大人ではないんですね。

激情に駆られて聡子に絶縁の手紙を出したものの、清顕を慕う彼女の心情を知って手紙を読まずに焼き捨ててくれと懇願したり、何事もなかったように振舞う聡子が実はその手紙を読んでいたことを知って傷ついたりと、清顕は自分自身の自尊心に振り回されているのです。

しかし、清顕に突き放されたことに失望した聡子が皇族との縁談を受けたことから、2人の関係は一変します。「禁断の恋」に燃え上がった2人ですが、もはや彼らには「未来」はありませんでした・・。

シンプルなストーリーでありながら、濃厚な作品です。とりわけ清顕の心理描写の細やかさには息苦しさを覚えるほどであり、男性として嫌いなタイプですから、時として読み進めるのが辛く思えたくらい。^^;

本書の悲劇的な結末は、現世の「禁断の恋」にうつつを抜かした清顕と聡子の関係が著者の美意識を満たしていないということを意味しているのでしょう。美を永遠の存在に昇華させるために清顕の死は不可避であり、再度、再々度の転生が必要とされてくるのです。

それは第2部以降で、清顕の親友であった本多繁邦に見届けられることになります。あまりにも濃厚ですので、第2部以降は少々時間を置いて読み進めることにしましょう。

2012/4