りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012/3 あの川のほとりで(ジョン・アーヴィング)

アーヴィングさんの新作は、これまでの作品と同様に「事故の起こりがちな世の中」で繰り広げられる「父と子の物語」ですが、作家である主人公の経歴に著者との共通点が多く「シンボリックな自伝」になっています。「作家の視点」の解説や、いつも同じテーマという批判への反論など、創作の秘密の一端が明かされるのは嬉しい限り。もちろん作品としても優れていますし、何よりもおもしろいのですから、文句のつけようがありません。
1.あの川のほとりで(ジョン・アーヴィング)
「事故の起こりがちな世の中」で繰り広げられる「父と子の物語」は、半世紀もの間、アメリカ北東部とカナダの各地を転々としながら、逃亡の旅を続ける父子が主人公。現実のアメリカが体験したサイゴン陥落やツインタワー崩落という悲劇を背景にして、暗い予感が次々と実現してしまうにもかかわらず、本書は「川のほとりから始まる人生の大冒険」の物語であり、物語の素晴らしさを謳いあげた作品なのです。

2.怪物はささやく(シヴォーン・ダウド/パトリック・ネス)
早世した著者による原案を、カーネギー賞作家が仕上げた作品は、母の死に直面した少年の心の底を残酷なまでに抉り出します。母親の病気のことで頭がいっぱいの少年コナーのもとに現われた怪物は矛盾に満ちた物語を聞かせて、4つめの真実の物語を語れと少年に迫ります。真の癒しを得るためとはいえ、心の奥底まで踏み込んでいく過程は辛い体験ですね。誰にとっても・・。

3.土曜日(イアン・マキューアン)
社会的にも経済的にも家族にも恵まれた脳神経外科医ヘンリーの1日は、危機の予兆に満ちていたものの、結果的には平穏無事に終わります。ではこれは、ヘンリーが早朝に目撃した「炎をあげる飛行機」のようにアンチ・クライマックス小説なのでしょうか。いや、読者が感じた危機の予兆は、この後も現実世界において何度も訪れるのでしょう。そして常に危機から逃げ切れるわけではないことを、著者も読者もわかっているのです。



2011/3/31