アーヴィングさんの新作は、これまでの作品と同様に「事故の起こりがちな世の中」で繰り広げられる「父と子の物語」ですが、作家である主人公の経歴に著者との共通点が多く「シンボリックな自伝」になっています。「作家の視点」の解説や、いつも同じテーマという批判への反論など、創作の秘密の一端が明かされるのは嬉しい限り。もちろん作品としても優れていますし、何よりもおもしろいのですから、文句のつけようがありません。1.あの川のほとりで(ジョン・アーヴィング)
「事故の起こりがちな世の中」で繰り広げられる「父と子の物語」は、半世紀もの間、アメリカ北東部とカナダの各地を転々としながら、逃亡の旅を続ける父子が主人公。現実のアメリカが体験したサイゴン陥落やツインタワー崩落という悲劇を背景にして、暗い予感が次々と実現してしまうにもかかわらず、本書は「川のほとりから始まる人生の大冒険」の物語であり、物語の素晴らしさを謳いあげた作品なのです。
2.怪物はささやく(シヴォーン・ダウド/パトリック・ネス)
早世した著者による原案を、カーネギー賞作家が仕上げた作品は、母の死に直面した少年の心の底を残酷なまでに抉り出します。母親の病気のことで頭がいっぱいの少年コナーのもとに現われた怪物は矛盾に満ちた物語を聞かせて、4つめの真実の物語を語れと少年に迫ります。真の癒しを得るためとはいえ、心の奥底まで踏み込んでいく過程は辛い体験ですね。誰にとっても・・。
早世した著者による原案を、カーネギー賞作家が仕上げた作品は、母の死に直面した少年の心の底を残酷なまでに抉り出します。母親の病気のことで頭がいっぱいの少年コナーのもとに現われた怪物は矛盾に満ちた物語を聞かせて、4つめの真実の物語を語れと少年に迫ります。真の癒しを得るためとはいえ、心の奥底まで踏み込んでいく過程は辛い体験ですね。誰にとっても・・。
3.土曜日(イアン・マキューアン)
社会的にも経済的にも家族にも恵まれた脳神経外科医ヘンリーの1日は、危機の予兆に満ちていたものの、結果的には平穏無事に終わります。ではこれは、ヘンリーが早朝に目撃した「炎をあげる飛行機」のようにアンチ・クライマックス小説なのでしょうか。いや、読者が感じた危機の予兆は、この後も現実世界において何度も訪れるのでしょう。そして常に危機から逃げ切れるわけではないことを、著者も読者もわかっているのです。
社会的にも経済的にも家族にも恵まれた脳神経外科医ヘンリーの1日は、危機の予兆に満ちていたものの、結果的には平穏無事に終わります。ではこれは、ヘンリーが早朝に目撃した「炎をあげる飛行機」のようにアンチ・クライマックス小説なのでしょうか。いや、読者が感じた危機の予兆は、この後も現実世界において何度も訪れるのでしょう。そして常に危機から逃げ切れるわけではないことを、著者も読者もわかっているのです。
【その他今月読んだ本】
・峠うどん物語(重松清)
・デッド・ゼロ(スティーヴン・ハンター)
・野いばら(梶村啓二)
・曾根崎心中(角田光代)
・魔法使いクラブ(青山七恵)
・ライオンの蜂蜜(デイヴィッド・グロスマン)
・碧奴(蘇童)
・ワタクシハ(羽田圭介)
・ヒア・カムズ・ザ・サン(有川浩)
・戦火の馬(マイケル・モーパーゴ)
・アレクシア女史、欧羅巴で騎士団と遭う(ゲイル・キャリガー)
・眺望絶佳(中島京子)
・親鸞 激動編(五木寛之)
・ねじまき少女(パオロ・バチガルピ)
・トワイライト・テールズ (山本弘)
・火星の挽歌 - タイム・オデッセイ3(アーサー・C・クラーク/スティーブン・バクスター)
・とんずら屋弥生請負帖(田村大和)
・海に降る(朱野帰子)
・解錠師(スティーヴ・ハミルトン)
・日本を捨てた男たち(水谷竹秀)
・峠うどん物語(重松清)
・デッド・ゼロ(スティーヴン・ハンター)
・野いばら(梶村啓二)
・曾根崎心中(角田光代)
・魔法使いクラブ(青山七恵)
・ライオンの蜂蜜(デイヴィッド・グロスマン)
・碧奴(蘇童)
・ワタクシハ(羽田圭介)
・ヒア・カムズ・ザ・サン(有川浩)
・戦火の馬(マイケル・モーパーゴ)
・アレクシア女史、欧羅巴で騎士団と遭う(ゲイル・キャリガー)
・眺望絶佳(中島京子)
・親鸞 激動編(五木寛之)
・ねじまき少女(パオロ・バチガルピ)
・トワイライト・テールズ (山本弘)
・火星の挽歌 - タイム・オデッセイ3(アーサー・C・クラーク/スティーブン・バクスター)
・とんずら屋弥生請負帖(田村大和)
・海に降る(朱野帰子)
・解錠師(スティーヴ・ハミルトン)
・日本を捨てた男たち(水谷竹秀)
2011/3/31