りぼんの読書ノート

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クラカトアの大噴火(サイモン・ウィンチェスター)

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ジャワ・スマトラ両島間の狭い海峡に浮かぶ標高約800メートルの火山島クラカトアが、1883年8月27日に起こした大爆発は、なぜ「史上最悪の噴火」と呼ばれているのでしょう。「オクスフォード英語大辞典」の編纂事業を小説化した博士と狂人の著者による壮大なノンフィクションです。

著者の視点は多面的です。噴火の様子や被害状況を当時の記事や証言を用いて紹介し、津波や爆発音や衝撃波や粉塵の世界各地での観測データを客観的に伝達するにとどまりません。この噴火が政治・経済・社会・科学・芸術などのあらゆる面で歴史的大変動の契機となったことを、丹念に伝えていきます。

この噴火が史上初の海底ケーブル網による世界同時報道や地球規模での自然観察の実例となり、この被害がイスラム原理主義の抬頭と植民地主義の崩壊に結びついていき、粉塵による異常な夕焼けが新たな絵画(たとえばムンク「叫び」)を生み出したというのです。

そして、この噴火の研究が1960年代に登場した「プレートテクトニクス理論」となって結実するに至ります、当時、地質学部の学生として理論を裏付ける観測を行った著者の記述は整然としてわかりやすいのみならず、理論成立時の学会の興奮を臨場感を持って伝えてくれます。インドネシアと同様、複数のプレートの衝突点に位置する日本での地震予知も、この理論の上に成り立っているわけです。

ひとつの事象を掘り下げていくことが、世界的・普遍的な意味へと展開されていく、この著者のノンフィクションは、なかなか魅力的です。他の著作も読んでみたくなりました。

2014/7