りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

リリエンタールの末裔(上田早夕里)

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「バイオSF」のイメージが強い著者ですが、文学的な香りを漂わせた作品になっています。もちろんどれも、ジャンル分けするとSFとされてしまうのでしょうが、科学技術の進歩が人と社会にもたらす影響を丁寧に描いた作品集です。

「リリエンタールの末裔」
華竜の宮と同じ世界です。遺伝子を改良して海の民となった者たちとは別に、背中に鈎爪を持つ高地の民となった人々は、都市では差別的な待遇を受けていました。空を飛びたいという青年の夢は、本人にも助力者にも、また社会的にも大きな問題を引き起こす可能性があるのですが、青年は空に飛び立ちます。

「マグネフィオ」
ありがちな三角関係ですが主人公の男性はあっさりふられてしまい、あとの2人が結ばれています。しかし交通事故で主人公は相貌失認の障害を負い、友人の男性は植物人間化。次世代型脳波計によって夫と意思疎通をはかりたいという女性の願いを聞き入れて、彼女を助ける主人公ですが、彼はかつて愛した女性の顔すら認識できなくなっていたのです。やがて人工神経細胞の移植によって主人公が相貌認識能力を取り戻したとき、友人の男性は死を迎えるのですが・・。科学技術が発展しても、他者との意思疎通とは錯覚にすぎないのでしょうか。

「ナイト・ブルーの記憶」
深海無人探査機のオペレーターが、不思議な皮膚感覚を持つようになっていきます。機械から人間へのフィードバックは、人間のあり方を変えてしまうのでしょうか。たとえば思考で動く義手や義足が生み出されたら、人と機械の境界線は変わってしまうのかもしれません。

「幻のクロノメーター
18世紀のイギリスで高精度のクロノメーターを作成したのは、もと大工職人のジョン・ハリソンでした。ジョンのもとで家政婦として働く少女が手に入れた「謎の石」が工学技術を飛躍的に発展させる「スチームパンク」と思いきや、思わぬ展開となっていきます。欠けている部品の役割を果たすという万能の「謎の石」は、事故で心臓が停止した少女に何をもたらしたのでしょう。

2013/12