りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夢みる葦笛(上田早夕里)

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華竜の宮深紅の碑文で、地球的な危機に際して深海での生活に適合する人類を創造してしまった著者が、さまざまな形で「人類の次に来るもの」を見越した作品を中心とする短編集です。SFというより奇想に近い作品も含まれています。

「夢みる葦笛」
死者を変態させて「考える葦」ならぬ「歌う葦笛」にしてしまいました、人々の心から憎しみを取り除くという音楽とは人間性の破戒なのでしょうか。

「眼神」
神の依代として選ばれた幼なじみを救うために、憑きもの落としの呪術を学ぶ主人公の試みは成功したのでしょうか。しかし本書の神とは何者であり、神を排除することは何を意味しているのでしょう。

「完全なる脳髄」
ナノ兵器によって不完全者として生まれてくる者たちの救済策として、未発達の脳を機械で補助させて生かし続ける技術が確立された時代。生体脳移植は、彼らを真の人間へと変えるのでしょうか。

「氷波」
外惑星領域で観測業務に従事しているAIは、人間の脳を部分的にコピーした意識と接触し、「劣化コピーではなく純化」ではないかと思うのです。

「滑車の地」
泥に覆われた惑星で古代の塔上に住む人類が、新天地を探索する飛行計画のパイロットとして選んだのは、人工生命体の少女でした。人類の生存を賭けたミッションを、非人類に託すことは正しいのでしょうか。

「上海フランス租界祁斉路三二〇号」
日中戦争夜の上海和平工作にも協力している日本人研究者の前に現れた謎の青年は、その後の歴史を予言して、すぐにでも帰国するよう勧めるのですが・・。

「アステロイド・ツリーの彼方へ」
テレプレゼンス技術により、地上にいながらにして宇宙探査が可能な時代。猫型AIのテストを引き受けた主人公は、AIの背後に何かが存在しているように感じます。人間的な生命と知性は、人間的な身体感覚を必要とするのでしょうか。

他には、マーブル状の石に過去の記憶を封じ込める「石繭」、暴風の星で飛び続けるシリコン生命体との意思疎通を試みる「プテロス」、事故死した恋人が残した人格データとの会話を試みる「楽園(パラディスス)」が収録されています。

2017/3