りぼんの読書ノート

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世界天才紀行(エリック・ワイナー)

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ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで」とのサブタイトルがついています。天才を生み出すのは遺伝子でも努力でも偶然でもなく、天才の出現は「場所と時間に影響される」と考えた著者が、天才たちが生まれた町を訪れる思索紀行です。時代を遡るのは不可能なので、そこは思索に頼るというわけです。

著者が訪れた町は7カ所。ソクラテスプラトンがいた古代アテネ。蘇軾らの詩人や芸術家を輩出した宋時代の杭州ルネサンス期のフィレンツェアダム・スミス、ワット、ヒュームらが登場した18世紀啓蒙時代のエディンバラ。混沌の中からタゴールらが現れた20世紀初頭のカルカッタ。18世紀には天才音楽家たちを、20世紀初頭にはフロイトや分離派たちを生んだウィーン。そして現代のシリコンバレー

著者は天才が現れる条件として、無秩序(disorder)、多様性(diversity)、選別力(discernment)という「3つのD」をキーワードとしています。具体的には、移民などによる文化の融合、評価者や民衆のレベル向上、パトロンや競争者の存在などがあげられるようですが、著者は演繹的な原則を打ち立てようとしているわけではありません。仮にそんなものがあったとしても、それはバタフライ効果並みに複雑で再現不可能なのでしょうから。世界中でシリコンバレーを作る試みが失敗していることを見れば、一目瞭然ですね。

そのかわりに著者はユーモラスな口調で、時に天才たちの奇癖をあげつらい、時に天才たちの口論や対決を想像して楽しみ、時に天才の後継者たちの不運に共感することによって、天才たちが存在した時空へと思いを馳せていきます。そしてそれは、教訓や原則を打ち出すよりも間違いなく楽しいのです。

ただし、ひとつだけはっきりしていることもあるのです。それは、天才たちの都にもいずれは終焉が訪れるということ。本書で挙げた事例では、ピーク期は50年程度しか持続していないようです。そういえば、シリコンバレーもそろそろ50年です。

2017/3