りぼんの読書ノート

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リーチ先生(原田マハ)

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日本の美を愛し続けた英国人陶芸家のバーナード・リーチの半生を、彼の弟子となった無名の父子の視点から描いた作品です。

英国留学中の高村光太郎の知遇を得て、明治42年に22歳で来日。柳宗悦白樺派の青年達と交友し、富本憲吉とともに6代尾形乾山から陶芸を学び、我孫子柳宗悦の家に窯を開いて陶芸家となる頃までが、リーチの青春時代。濱田庄司河井寛次郎を連れてイギリスに戻り、セント・アイブスに登り窯を開いたときはまだ33歳なのです。

当時、装飾用陶磁器は芸術的価値を認められていましたが、実用的な陶芸品は一段低いものとみなされていたようです。そのあたりの事情は欧米でも日本でも同様で、柳宗悦らの民藝運動が評価されたのも、アメリカでカウンターカルチャーの風が吹いたのも、1950年代のようです。

本書は、その大半をリーチの通訳兼助手であった亀乃介の視点から描かれます。戦後、何度目かの来日を果たしたリーチと出会うのが、父親とリーチの関係を知らずに育った亀乃介の息子であったという構成なのですが、この視点人物の選び方がイマイチだったようです。464ページの著作の最初から最後まで尊敬の眼差しなので、物語に起伏が感じられないのです。

サリエリ目線で見たモーツアルト」とまではいかなくとも、もう少し客観的な第三者目線を入れて、リーチの葛藤とか友人たちとの対立なども描いたほうが、物語的には楽しめるものになったと思えるのですが、いかがでしょう。

とはいえ、美術に造詣の深い著者の作品なので、リーチの業績や作品の評価はしっかりしています。プロローグの舞台に大分県の小鹿田の資料館や、大原美術館で、リーチの作品を見ることができるとのこと。大原美術館には行ったことがあるのですが、見落としてしまったようです。

2017/3