りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

全滅領域(ジェフ・ヴァンダミア)

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「サザーン・リーチ3部作」の第1作ですが、全体の枠組みが不明なまま、登場人物のモノローグによって物語が進展していきます。

どうやら「サザーン・リーチ」とは、世界の一角に突如として出現した、異様な生態系を有する謎の領域「エリアX」を監視する機構のようです。「エリアX」との唯一の接点から、過去11次に渡る調査隊が派遣されたものの、さしたる収穫はないどころか、まともに帰還できたものすらほとんどいない始末。

本書は、女性4名からなる第12次調査隊の一員となった、生物学者の視点から綴られていきます。信頼できないリーダーの心理学者。互いに疑心暗鬼を持ち合う人類学者と測量技師。過去作成されてきた地図にない構造物「地下への塔」を前にして、仲間たちとの軋轢が主人公を悩ませます。さらに彼女には、失敗した結婚に関係した個人的な秘密もあったのです。

「塔」の底に潜む謎の生物クロ-ラー。階段の壁に菌類が刻む謎の文章。人間のような眼を持つ「エリアX」の動物たち。迫りくる生物汚染と変容への恐怖。そして主人公は、「海」との境界である「灯台」に到達したときに「サザーン・リーチ」が積み重ねてきた欺瞞に気づくのですが・・。

悪夢が暴走したかのような世界に入り込み、過去への後悔に苛まれながら、それでもなお「人間」であり続けようとする主人公がいいですね。この世界の「謎」は解明して欲しいものですが、あるいはそれも不要なのかもしれません。結局は「どう生きるか」という問題に帰着していくのでしょうから。

2015/7