りぼんの読書ノート

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西太后秘録(ユン・チアン)

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清朝末の半世紀に渡って中国に君臨した西太后は、中国と王朝を衰退させた悪女なのでしょうか。それとも沈みゆく船を支えようとした女傑なのでしょうか。かつて主流だった「贅沢で残忍な独裁者」とのイメージは、浅田次郎さんの蒼穹の昴によって変わったように思います。日中合作ドラマになりましたから、中国内のイメージも変化しつつあるのかもしれません。

『ワイルド・スワン』マオの著者が「西太后の正当な評価」を試みた本書では、「母性」を前面に出した浅田さんよりも、「近代化政策」を冷静に評価しているようです。

ざっと彼女の生涯をおさらいしてみましょう。16歳で咸豊帝の側室となって嫡子・同治帝を産んだ西太后は、咸豊帝の死後、正妃の東太后とともに幼帝の後見となって政治の実権を握ります(辛酉政変)。同治帝が早世した後は、甥の光緒亭を即位させて垂簾政治を再開。光緒亭の成人後はいったん政治の中枢から身を引いたものの、日清戦争後の混乱の中でクーデタを起こして政治の実権を掌握(戊戌の政変)。中国の近代化を進めたものの、1908年に72歳で他界。死の直前に擁立した宣統帝・溥儀は、清朝のラスト・エンペラーとなります。

太后との関係を「同志的な友情」と見なしたり、宦官との恋愛や、光緒亭の幽閉と死、「珍妃の井戸事件」の「真相」など、作家としての推測によって断言した箇所も目立ちますが、「西太后目線」での叙述は、概ね冷静のようです。改革への意志と伝統や因習の束縛を、矛盾を内包しつつも一身に体現したような生涯は、国家に捧げられたものでした。彼女と比較すると、思考停止してしまった皇帝や、優柔不断な男たちのヘタレぶりは、なんとも情けなくなります。

もうひとつの本書の特徴は、「女性目線」であることでしょう。彼女の生前の評判も死後の評価も、女性であるが故の悪評と無視によって歪められてきたと、著者は主張します。「西太后時代の歴史」が、清朝を倒した側によって形作られたことも、おそらく影響しているのでしょう。中国を近代国家へと改造した、西太后の改革が清朝の滅亡に結びついていったことは、皮肉なことです。

2015/7