りぼんの読書ノート

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2018/9 かがみの孤城(辻村深月)

8月に引き続いて、9月もSFやファンタジー的な作品が多めでした。暑いときにはSFに限るのです。とはいえ本格ハードSFは『シルトの梯子』だけで、辻村深月さん、川上弘美さん、堀川アサコさん、ル=グィンさんらの作品は、ファンタジー的な要素が強めの文学作品だったように思えます。


1.かがみの孤城(辻村深月)
2018年度の本屋大賞受賞作です。心を打ち砕かれて不登校となっている7人の中学生が、望みを叶えるために心を通わせていく、ファンタジー仕立ての物語。彼らが孤城に集められた理由と目的を理解した時に生まれる感動の背景には、現実世界の人たちの心情や行動も、フェアな立場から丁寧に描かれていることがあるのでしょう。

 

2.シルトの梯子(グレッグ・イーガン)
理論的には6兆分の1秒で崩壊するはずの新時空を生み出す実験が失敗し、無限に膨張を続ける新時空が、既存宇宙を次々と浸食していくという事態が発生。ハードSFですが、宇宙に拡散した人類が自らをデータ化する選択も可能となっている時代において、アイデンティティやフロンティア精神の意味を問い直す、優れて文学的な作品です。

 

3.戦時の音楽(レベッカ・マカーイ)
戦争をはじめとする悲惨な運命や、濫用される権力に翻弄される人々は、理不尽な世界に抵抗するためのパワーをどこから得れば良いのでしょう。時にリアルで、時にコミカルで、時に寓話的で、時にファンタジックな作品も含まれる多様な作品集ですが、暴力的な不寛容にはじまって許しで終わる17編の並び順も絶妙です。

 

 

 

 

2018/9/29