りぼんの読書ノート

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エーゲ海に強がりな月が(楊逸)

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中国のハルビンから留学生として来日してバイトをしながら日本語を学び、中国語教師などの職を経験した後に作家となった著者は、日本語以外の言語を母語とするはじめての芥川賞を受賞しています。彼女が描く小説には、日本を外側から見ているような視点が感じられて新鮮なのですが、本書もそんな作品です。

主人公の女性は、著者と同様に日本に帰化した中国人なのでしょう。大学時代の同級生とつきあって別れ、仕事優先の次の恋人とも別れたものの、現在は優しい男性と結婚しており、海外出張の多い夫がシンガポールに赴任して生活が落ち着くことを願っています。

そんな彼女が気にしているのは、バイト先のカフェで知り合った桂子です。OLを辞めて上京し、素人ながら株で稼ごうとしている桂子は、証券会社で知り合った親子ほど年の離れた男性と付き合っているのです。「彼+父親」のような存在として「カレチ」と呼んでいる男性からエーゲ海に誘われた桂子ですが、周囲から親子と思われてしまい、カレチから年相応の男性とつきあうように勧められる模様。カレチは若い桂子の行く末を、それなりに気にしているようなのですが・・。

「リーダーツバメでも迷子ツバメでも、自立する自信があれば、たった一羽でも青空に羽ばたける」と綴る著者は、日本の老人の恋愛事情を不思議に思いながらも批判などしていません。それでも著者の視点には現代の日本がどう映っているのか、気になってしまいます。

2018/7