りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アカペラ(山本文緒)

イメージ 1

2001年に直木賞を受賞した後に、鬱で休業していた著者の復帰作品とのこと。こういう小説を書かれる方は、「生き辛い」のかもしれません。良くも悪くも、著者の人柄を感じることができるような作品でした。

「アカペラ」
しょっちゅう行方不明になる身勝手な母親と、まだらボケの祖父との3人で暮らしている中学3年生のタマコ。単身赴任中の父親は不倫中で、両親は離婚間近のようす。タマコの高校進学には誰も関心を持ってくれないので、得意の手芸を生かしたバイト先に就職するつもり。祖父のことを大好きなタマコは、自分のことを不幸とは思っていなかったのですが、「おじいちゃんを老人ホームに入れる」と言い出した母親に反発。祖父との「駆け落ち」を決意するのですが、とんでもないことに・・。タマコに振り回される、担任の男性教師カニータの視点が、妙にリアルです。

「ソリチュード」
36歳の春一が、高校3年の冬に飛び出した故郷に18年ぶりに戻ってきたのは、父親が亡くなったと聞いたから。何事もなかったように息子を迎えた母親との再会より、かつて恋人だったいとこの美緒との再会はぎこちない。母子家庭となっている美緒の娘・一花が春一を慕うのは、父親の代わりなのでしょうか。何にもなれないまま、自分の人生にも人間関係にも中途半端な春一は・・。

ネロリ
出版社で社長秘書として働く志保子は、39歳無職の病弱な弟・日出男を養っているのですが、引退する社長から依頼退職を勧められます。タイミングを見計らっていたかのように現れた年下の男性から、プロポーズされるのですが・・。一方で、日出男を訪ねてきて恋人のように振る舞う19歳の専門学校生・ココアは何を考えているのでしょう。

主題も視点も異なる3編に共通しているのは、まだ少女といってもいい10代の女性に振り回される、ダメダメな中年男性の存在。中年男はリアルに思えるのに、無垢で強烈な少女のほうが存在感ゼロなのは、女性作家としては珍しい。著者の略歴から感じられる「生き辛さ」と、無関係ではないように思われるのですが・・。

2015/4