りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

食べて、祈って、恋をして(エリザベス・ギルバート)

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20代半ばで作家デビュー。処女短編集巡礼者たちは数々の文学賞を受賞。ステキな結婚もしてニューヨーク郊外の家で、小説やノンフィクションを綴る毎日。他人から見たら「羨ましいほどの成功者」だったはずなのに、彼女は「精神的迷子」になってしまいました。

結婚生活は破綻して離婚調停は泥沼化し、その過程で知り合った男性とも長続きせず、自分の力では立ち直れないほどボロボロになってしまったんです。自己啓発の本を買い、ヨーガを習い、セラピストに通い、それでも鬱状態から抜け出せません。

そんな彼女が決めたのは、1年間全てを忘れて海外で暮らすこと。最初の4ヶ月はイタリアでイタリア語を学び、次の4ヶ月はインドで自分が尊敬するグルの寺院で修行をし、最後の4ヶ月はバリ島で治療師の近くで生活する!安っぽい言葉で言うと「自分探しの旅」なんですね。

「歓ぶ心」を呼び覚ますために、おいしいものを食べまわり、美しいイタリア語を学び、観光地を歩いて心ときめかす「イタリア編」はストレートに楽しめます。世界中から修行に訪れる人たちと寺院で暮らす「インド編」はスピリチュアルにすぎる感があるけど、「テキサスのリチャード」など破天荒な人とも出会いました。

不思議な治療師と「自然な暮らし」を試みる「バリ編」では、ウブドゥに住み着いた外国人たちが結局は「何もしないことに安住しているだけ」と気づくに至ります。不幸な母子に差し伸べた善意が裏目に出そうにもなりますが、思いがけないロマンスを見つけることもできました。

でも彼女は、旅の最後に得た充足感について「自分は恋愛に救われたわけではない」ときっぱり宣言しています。自分を泥沼から救い出したのは、自分自身だったのですね。そして、一番好きなイタリア語で旅を締めくくるのです。「アトラヴェルシアーモ」さあ、渡りましょう

正直言って「ついていけない」シーンも多かったのですが、この本が世界中の女性から共感を得たという理由は理解できます。作家である著者が、自分の陥ったドツボ状態を正直に告白し、客観的な視点からユーモアを交えて語る体験記は「ノンフィクション」の力強さを持っているんですね。

本筋とは関係ないけれど、ローマのキーワードを「Sex」と感じた著者が、アメリカの各都市のキーワードを連想する場面が印象に残りました。ニューヨークは「achieve」、ロサンゼルスは「success」。シャンハイなら「prosper」でしょうか。まさかトーキョーは「endure」じゃないでしょうね。

2011/8