りぼんの読書ノート

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韓国文学の中心にあるもの(斎藤真理子)

近年の韓国文学、とりわけフェミニズム文学と言われる分野の作品は「パワフルで魅力的」です。私もこの数年の間に、ブームの火付け役とされる『82年生まれ、キム・ジヨン』をはじめ、書肆侃侃房から出版された「韓国女性文学シリーズ全10巻」、白水社エクス・リブリスから出版されたハン・ガン、ピョン・ヘヨン、パク・ソルメ、カン・ファギルらの作品、SFを得意とするキム・チョヨプ、そしてもちろん『カステラ』、『ピンポン』などのパク・ミンギュ作品を読んでいます。ではなぜ、韓流ドラマとは対極的な韓国文学が、現代の日本で幅広く受け入れられるようになったのでしょう。

 

本書は、韓国文学翻訳の第一人者である著者が「韓国文学の中心にあるもの」について、多くの作品を紹介しながら丁寧に解き明かしてくれた解説書です。時系列順の解説ですが、現代のフェミニズムから遡って、2014年以降のセウォル号とキャンドル革命の時代、1990年代後半のIMF危機、1980年代の光州事件、1970年代の朴正煕独裁時代、朝鮮戦争以降の分断の時代、1945年以降の解放時代へと、時代を遡っていく方式が効果的ですね。記憶に新しく、関心も高いところから始まると入っていきやすいのですから。

 

著者は、現代韓国文学の魅力と日本との違いについてのキーワードとして「戦争」をあげています。敗戦体験以降は平和を享受し続け、隣国の戦争を「特需機会」と捉えただけの日本との決定的な違いが、そこにあるというのです。確かに現代フェミニズムへの批判は徴兵制を不平等と感じる男性側から出ているし、独裁や戒厳令が続いた政治との緊張関係が、セウォル号事件や光州事件の際の厳しい政治批判を生み出したのでしょう。そしてそれが「忖度」や「表現の不自由」を許容している日本で高まっている不満と結びついているように思えるのです。

 

著者は宋基淑(ソン・ギソク)の『光州の五月』について「現在、この小説を読み通すことにはかなりの困難が伴う」と述べていることを、紹介しておきましょう。私は、2000年に書かれたこの作品を2008年に読んで感銘を受けたのですが、著者は「当時の女性観に困惑させられる」と言います。社会的にも、自分の視点としても、この20年で一番変化したのはそこなのかもしれません。

 

2022/12