りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

息子を奪ったあなたへ(クリス・クリーヴ)

17【息子を奪ったあなたへ(クリス・クリーヴ)】

「オサマ・ビン=ラディンが首謀した自爆テロによって、ロンドンのサッカー場で千人を超える死傷者が発生」というのは架空の事件です。しかし本書が出版された2005年7月7日には、ロンドンの地下鉄と二階建てバスで同時多発テロが発生しているなど、テロの脅威が最も警戒された時期に書かれた作品です。

 

プレミアリーグの試合を観戦中だった夫と4歳の息子を同時に失った母親の心には、男の子の形をした大きな穴が空いてしまいました。本書は「その母親がオサマに宛てて書いた手紙」という体裁で、彼女の「その後の人生」が綴られていきます。

 

貧しい地区で生まれ育った彼女は、貞淑な妻ではありません。警察で爆弾処理班の仕事をしている夫のことが不安なあまり、ひとりでパブに出かけて不倫をしたこともあります。いや、まさに不倫の最中に爆発が起こったことが、彼女の心に大きな穴を空けてしまったのかもしれません。それでも彼女はいてもたってもいられず、スコットランドヤードに乗り込んでかつての夫の上司と面会し、テロ対策チームの雑用をこなす仕事に採用されます。しかしそこで知った衝撃的な事件の真相が、喪失の悲しみから回復しつつあった彼女を再び打ちのめしてしまうのでした。

 

はっきり言って読後感の悪い作品です。主人公の女性は、2度目のショックからはついに立ち直ることなく、自らを追い込んでいくのです。オサマに語り掛ける口調が次第に変化していくあたりが「読ませどころ」なのでしょうが、本書が世界的なベストセラーとなったとは信じられないのです。インパクトが強い作品であることには同意するのですが。

 

2022/12