りぼんの読書ノート

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レニーとマーゴで100歳(マリアンヌ・クローニン)

グラスゴーの病院で終末医療を受けている17歳の少女レニーが、アートセラピーで83歳のマーゴと知り合います。年齢こそ大きく違いますが、ともに死と向き合っている2人の女性は、自分たちが生きた証として、合わせて100年の人生を100枚の絵にして残すという計画を思いつきます。1枚の絵を描くたびに、絵にまつわる人生のひとこまを語っていくのです。

 

83歳のマーゴには、波乱に満ちた人生があります。17歳で結婚相手と出会いますが、生まれて間もない息子を失ったことで夫は家から出ていきます。全てを失ったマーゴはロンドンに出て自由奔放なミーナと愛し合いますが、同姓間の愛なんて本人ですら認められない時代。やがてミーナから離れたマーゴは変わり者の天文学者と結婚して穏やかな暮らしを続けますが、夫が亡くなった後にミーナと再会。彼女が暮らすベトナムへのフライトが、心臓手術を受けるマーゴの最後の願いになっています。

 

17歳のレニーの人生はまだ始まったばかりでした。7歳の時にスウェーデンからイギリスに引っ越してきた後に、母親は精神に変調をきたして病死。ただ1度だけのキスの経験しかないのに、深刻な病気で入院。再婚した父親のことは意識して遠ざけています。しかし彼女は、死を覚悟しながらも病院内での限られた生活を楽しもうとしているのです。だからレニーはマーゴはもちろん、病院内礼拝堂牧師のアーサー、アートセラピーを思いついたピッパ、警備員、ポーター、新米看護師など周囲の人々に愛されたのでしょう。

 

物語は、2人が合わせて100年の人生を生き切ったところで終わります。根源的でシリアスなテーマを扱っているのに、ファニーで愛らしい作品になっているのは、レニーとマーゴという2人のヒロインのキャラによるところが大きいですね。1990年生まれの若い著者は、心臓病を患って自分自身の死の恐怖を感じたことが本書を書くきっかけであったと語っていますが、おそらく著者の分身であろうレニーとマーゴのような精神の持ち主なのでしょう。今年のベスト本の候補です。

 

2022/6