りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

私のおばあちゃんへ(ユン・ソンヒ他)

書肆侃侃房の「韓国女性文学シリーズ」第10巻は、「おばあちゃん」をテーマとする短篇を集めたアンソロジーです。それぞれ30代から40代の6人の女性作家たちが描くのは、自分の母の世代の女性であると同時に、自分自身の未来の投影でもあるようです。

 

「きのう見た夢」(ユン・ソンヒ)

離婚や家族との絶縁などの平坦ではない道を歩んできた初老の女性の最後の夢は、おばあちゃんになることです。いつか孫が出来たら格好いいおばあちゃんとなるために運動も学習も続けているのですが、亡き夫の前妻の子である娘も息子も縁遠い存在になるばかりです。

 

「黒糖キャンディー」(ペク・スリン)

祖母の遺品の中には、数十冊にもなる日記帳の束がありました。家族とともにフランスで暮らした少女時代のことを思い出した孫娘は、祖母がフランスで書いていた断片的な日記を手掛かりに、おばあちゃんの異国での恋物語を想像します。著者は『七年の夜』の作者です。

 

「サンベッド」(カン・ファギル)

親の代わりに自分を育ててくれたおばあちゃんが、認知症になって療養型病院で暮らすようになります。友人と見舞いに行った孫娘は、自分よりも友人を可愛がっていたおばあちゃんを恨めしく思っていたのですが、それは自分が去った後にひとり残される孫への愛情であったことに気付くのです。

 

「偉大なる遺産」(ソン・ボミ)

厳格だった祖母から遺された屋敷を処分するために久しぶりに故郷へ戻った孫娘は、祖母の家で家政婦をしていた女性と再会します。屋敷に泊まった夜に起こった事件によって彼女は、自分を捨てて家を出ていった母が孤独だったこと、また自分もまた孤独な人生を歩んでいることに気付かされるのでした。

 

「十一月旅行」(チェ・ウンミ)

祖母と娘を連れて1泊2日のテンプルステイに出かけた女性は、母の意外な一面を知り、母にだんだんと似てくる自分に気付いて愕然とするのです。著者は『第九の波』の作者です。

 

アリアドネーの庭園」(ソン・ウォンピョン)

21世紀後半の近未来を描くディストピア小説です。ひとりで堅実に生きてきた女性は、いつの間にか老人だけの下層ユニットに暮らす羽目になっています。そして彼女に親しく接してくれた移民の若い福祉パートナーが、老人たちが支配するこの国を憎んでいることを知らされるのです。

 

2022/6