りぼんの読書ノート

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フラナリー・オコナー全短篇 下(フラナリー・オコナー)

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下巻は、著者の死後に発刊された短編集『すべて上昇するものは一点に集まる』に、後期の2作品を加えたラインアップ。1964年に亡くなった著者の生涯は解放権運動とほとんどラップしていませんが、古くから南部白人が抱いていた黒人のイメージが崩壊していく様子を描いた作品も多く見受けられます。 

 

「すべて上昇するものは一点に集まる」 

ダウンタウンの減量教室に通うことになった母親に付き添う青年は、黒人客が乗り合わせてきたバスの中で母親が言い放つ「南部の常識」に耐えられません。可愛い黒人少年に小銭を恵もうとした母親は、少年の母親から罵倒されてショックのあまり・・。かなり怖い作品です。 

 

「グリーンリーフ」  

寡婦の農園に迷い込んできた雄牛は、成功した使用人の息子たちが開いた農場からやってきたようです。いらだった寡婦は雄牛を追い払おうとするのですが、その時悲劇が起こります。救いのない作品です。 

 

「森の景色」 

娘夫婦を嫌っている老人は、自分の農場をすべて、自分と同じ性格を持って生まれた孫娘に譲るつもりでした。しかし強情な孫娘もまた、老人の言うことを聞かないのです。孫娘にお仕置きをしようとした時に悲劇が起こるのでした。老人のエゴが元凶とはいえ、これた救いのない作品です。 

 

「長引く悪寒」 

病気になって都会から戻ってきた青年は、自分がもうすぐ死ぬと信じています。自分にこんな運命を押し付けた母親を呪うのですが、結末はかなりユーモラス。難病にかかってニューヨークから戻ってきた著者は、自分の運命を笑い飛ばして見せたのでしょうか。 

 

「家庭のやすらぎ」 

不道徳な罪にまみれた娘を救おうと決意した女性は、赤の他人でしかない彼女を救おうとして、自分の家に招き入れます。母の行為に耐えられない息子は「その女と自分のどちらかを選べ」と、母親に決断を迫るのですが・・。。人を救済しようと思うことは、ひとりよがりの偽善でしかないのでしょう。 

 

「障害者優先」  

前作と同系統の作品です。慈善事業に傾倒する男は、少年院を出所したばかりの少年を家に引き取って更生させようと試みます。足に障害を持つものの知能指数は高い少年は、男の偽善を嘲笑うどころか、まだ幼い男の息子に恐ろしいことを吹き込むのです。亡くなった母親に早く会う方法を。 

 

「啓示」 

怪我をした夫の付き添いで病院を訪ねた女性は、まずまずの水準で暮らしている自分と、待合室にいた不幸な人々を密かに比較していました。精神を病んでいるようなに突然襲われたのは、彼女の内心に気づかれてしまったからなのでしょうか。しかし恐ろしい啓示は牧場に戻ってから来るのです。最後の審判においては、良識と品位と秩序など「無」でしかないのだと。 

 

「パーカーの背中」  

女性たちに気に入られようとして、背中を除く全身に刺青をいれた男ですが、妻だけはそれを嫌っていたのです。敬虔な妻に気に入られようと「神」の刺青を背中に入れたのですが、偶像崇拝者と罵られるのでした。「長引く悪寒」と並んでユーモラスな作品です。 

 

「よみがえりの日」 

ニューヨークにある娘夫婦のアパートに同居させられた老人が思い返すのは、故郷アラバマの掘立小屋と長年付き合った黒人の使用人のことばかり。隣の部屋に越してきた俳優の黒人とも、もちろんうまくいきません。老人は死を覚悟してアラバマに帰ろうとするのですが・・。似たテーマを扱った上巻の「ゼラニウム」のほうに余韻を感じます。 

 

「パートリッジ祭」 

後期作品です。市をあげた祭りのバッジを買わなかった「罪」で有罪を受けて辱められた男が、市の名士たちを銃撃する事件が発生。この事件を題材にして小説を書こうとしている若い男は、同じ目的を有する若い女性と連れだって、犯人が収監されている精神病院を訪れるのですが・・。若者の理想論など、現実の前には容易に砕け散ってしまうものなのです。 

 

「なにゆえに国々は騒ぎ立つ」 

夫が倒れたため息子に農園を継ぐように告げた母親ですが、28歳にもなってニートの息子に手を焼いてしまいます。それどころか、息子の考えを理解できないのです。 

 

2020/9