りぼんの読書ノート

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フラナリー・オコナー全短篇 上(フラナリー・オコナー)

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著者は、1925年にアメリカ南部のサヴァンナに生まれ、アイオワ州立大学院と文化財団が運営するニューヨークの居住施設に住んだ4年間を除く生涯をジョージアで過ごした作家です。難病に苦しみながら39歳で亡くなるまで精力的に作品を書き続け、オー・ヘンリー賞を4度授賞した短編の名手なのですが、彼女の作風は苦手でした。「暴力的でグロテスク」という印象が強かったのです。 

 

今般『全短篇 上下』を読んだのは、フラナリー・オコナージョージアという、彼女の生涯と暮らした場所ををたどった本を読んだから。彼女の作品の中にはキリスト教的な救いを見出せるというのです。確かにそうでした。上巻には第一短編集『善人はなかなかいない』の全作品と、初期短篇6作が収録されています。 

 

「善人はなかなかいない」 

家族総出でフロリダへドライブに出かけますが、おばあちゃんだけはテネシーに生きたかったのです。彼女の強い希望で寄り道をしたところで悲劇が起こります。一家が遭遇した残酷な犯罪者の「罪と罰」は釣り合いがとれているのでしょうか。犯罪者はイエスが「釣り合いを取っ払ってしまった」と言い放つのですが。以前はこの作品を読んで、その後を読む気が失せてしまったのです。 

 

「河」 

通いの掃除婦に連れられて、河によく来る説教師に会いに行った男の子は、足を掴まれてさかさまに水に浸けられてしまいます。どうやら洗礼のようなのですが、それを神秘的な体験と受け取った男の子は、ひとりで河に向かうのですが・・。 

 

「生きのこるために」 

老婆と知恵遅れの娘が暮らす家にやってきた男は、老婆に乞われて娘と結婚の約束をするのです。しかし新婚旅行がわりのドライブに出かけた男は、娘を捨ててしまうのでした。 

 

「不意打ちの幸運」  

冴えない男と結婚して冴えないアパートに住んでいる疲れ果てた女性は、最近体調を崩しているようです。多くの子供を産んで干からびたようになってしまった母親のようにはなりなくないと思いながら、長い階段を上っているときに彼女は不調の原因に気づくのでした。 

 

聖霊の宿る宮」 

修道院付属学校に入れられた少女たちは、信仰よりも男の子に夢中。年下の女の子は、祭りにでかけて奇妙な見世物を見たという少女たちを羨むのですが、彼女はそれを見ることができませんでした。これは神の啓示なのでしょうか。 

 

「人造黒人」 

孫を連れてアトランタに出かけた老人は、知ったかぶりをしているものの大都会ではオロオロしてしまいます。初めて黒人を見て驚いて失態を演じた孫に対して、他人の振りをしてしまった老人は、孫の怒りを感じますが、黒人の銅像を見て神の啓示を感じた気持ちになるのでした。ちょっと意味不明です。 

 

「火の中の輪」 

女主人の農園にやってきた3人の不良少年は、そこから去ろうとしないのです。女主人が一番恐れているのは火事なのですが、もちろん事態は悪い方向に向かっていくのでした。リアルさが怖い作品です。 

 

「旧敵との出会い」 

南軍の将軍だったと自称する104歳の祖父と暮らす62歳の娘は、代用教員の資格を正式のものにするために大学に通っていました。しかし晴れの卒業式の日に軍服を着て列席した祖父は、南北戦争を思い出させるスピーチを聞いて混乱してしまいます。彼の頭の中では旧敵との最期の闘いが行われたのです。 

 

「田舎の善人」 

子どものころに事故で片足を失い、心臓も弱く、大学まで行かせてもらいながら高慢になって田舎に戻ってきた娘というのは、難病で苦しんだ著者の分身なのでしょう。しかし彼女は突然訪問してきた「田舎の善人」によってひどい目に合わされてしまうのです。これは彼女が受けるべき罰だったのでしょうか。 

 

「強制追放者」 

神父から紹介されて、老寡婦の農園で働き始めたのは、ヨーロッパでの迫害を逃れてきたポーランド人の一行でした。彼らは有能だったのですが、一族の娘を呼び寄せるために黒人男性と結婚させるという話を聞いて、老寡婦は彼らを憎み始めるのです。そして悲劇が起こるのでした。 

 

他に6篇の初期短編が収録されています。娘の住む都会で老後をすごす男性の憂鬱を描いたゼラニウム。差別的な州知事候補を応援する床屋に対して、大学教授が本格的な論争を挑む「床屋」。近隣住民から怖れられる山猫の襲撃を、ただ待つだけの老人を描いた「オオヤマネコ」。女性小説家が創作のテーマを思い悩む「収穫」。冴えない子供が一発逆転を狙っても成果を横取りされる七面鳥。はじめて寝台車に乗った老人が狼狽しまくる「列車」 

 

この作家の人間洞察が深いものであることは、よく理解できましたが、かなりの「S指向」とお見受けしました。 

 

2020/9