りぼんの読書ノート

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歌え、葬られぬ者たちよ、歌え(ジェスミン・ウォード)

トニ・モリスンの『ビラブド』を思わせるマジック・リアリズム的な手法を用いて綴られた、アメリカ南部に生きる黒人家族の物語。2017年に全米図書賞を受賞した作品です。女性としても、非白人としても、複数回の受賞は史上初とのこと。

 

3人の語り手の中で主人公的な役割を果たしているのは、育児放棄状態の母親レオニを軽蔑し、幼い妹のケイラの世話までしている13才の少年ジョジョ。彼は、刑務所に入っている白人の父親マイケルを憎んでいる一方で、同居している祖父のリヴァーのことは「父さん」と呼んで敬愛しています。

 

母親レオニも複雑な女性です。15歳の時に最愛の兄ギブンを白人に殺害されたにもかかわらず、犯人の従兄である粗野で意志薄弱なマイケルと関係を持ってしまいました。典型的な南部白人であるマイケルの両親からは認知されず、2人の子供たちにも愛情を注げないレオニは、自分の感情をもてあまし続けているのでしょう。彼女が亡き兄の霊の存在を感知できるのは、スピリチュアルな能力を持つアメリカ先住民の祖母に由来するのでしょう。そしてその能力は息子のジョジョにも引き継がれているのです。

 

そのジョジョにしか見えない、黒人少年リッチーの霊が、もうひとりの語り手です。刑務所で出会った若き日のリヴァーを兄のように慕っていたものの、そこで亡くなってしまった少年の霊は、出所するマイケルを迎えに行ったレオニやジョジョの乗る自動車に同情して、リヴァーのもとにやってきます。自分の死の真相を聞き出すために。

 

物語はクライマックスとなるリッチーの死の真相に向かって進んでいきます。その過程で日常茶飯事のように描かれる人種差別、女性差別、貧困、ドラッグ、暴力などの描写が、現代アメリカの病巣の深さを抉り出していきます。著者によると、タイトルの「葬られぬ者たち」とは無残な死に方をしたゴーストだけでなく、生者も含まれているとのこと。死者たちに鎮魂歌を手向ける一方で、生者たちには「絶望の中でも歌え」と励ますような本書の読後感は、決して重苦しいだけではありません。

 

2023/11