りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

花宴(あさのあつこ)

嵯浪藩の勘定奉行を代々務めてきた西野家の一人娘・紀江は、家を継ぐ婿を取ることが定められていました。しかし彼女には亡き母から譲り請けた、人並み優れた小太刀の才がありました。だから藩内で一、二を争う遣い手である十之介との縁談には心を弾んだのです。そして兄が殺害されて仇討ちに出ることになった十之介との縁が切れた時、紀江の心は深く沈んでしまったのです。

 

そして父が選んだ勝之進の妻となった後も、かつての想い人を忘れることができないことに、うしろめたさを感じ続けていました。母として生きる決意を与えてくれた娘を3歳で喪い、父も病に倒れた後、夫が不在がちになったのは、紀江の本心に気付いて落胆してしまったからなのでしょうか。しかしその時藩内には、権力を巡る暗闘が渦巻いており、夫は使命を果たすために命を懸けていたのです。夫婦の危機を乗り越えて夫を強く信じ、剣の腕は覚束ない夫を守るために小太刀を取って闘う決意を固めた紀江でしたが、彼女の前に立ちふさがったのは・・。

 

まるで藤沢周平葉室麟のような作品ですが、そこまでの力強さはありません。しかし最初から最後まで女性視点で夫婦関係の機微を描いたことには、著者らしさが感じられます。

 

2023/11