りぼんの読書ノート

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黛家の兄弟(砂原浩太朗)

藤沢周平葉室麟の系譜に連なる本格時代小説作家の第3作は、『高瀬庄左衛門御留書』に続いて神山藩を舞台とする物語でした。神山藩城下からの風景描写や、有数の大藩を本家とする支藩であることから、モデルは富山藩ですね。

 

本書の主人公は、代々神山藩の筆頭家老の家柄である黛家の三男・新三郎。道場仲間の圭蔵と穏やかな日々を過ごしていた青年に、大目付を務める黒沢家への婿入りが決まったことから、物語が動き出していきます。野心家の次席家老・漆原家出身の側室が男児を生んだことが火種となり、藩主の交代も絡む政争に巻き込まれていく黛家と黒沢家。目付となった新三郎は、漆原の陥穽に嵌まった次兄を裁く立場に追い込まれ、おのれの未熟さを激しく嘆くことになるのでした。

 

ここまででも一冊分の物語は成立していますが、本書ではここからが本番。13年後、廃嫡されていた世子が不審死を遂げ、いよいよ藩主の交替劇が行われようとしています。大目付となっていた新三郎は、そこでどのような役割を担うのか。彼は何を背負い続けていたのか。黛家の亡父の跡を継いで次席家老となっていた長兄は無事でいられるのか。夫裏切り者は誰なのか。スリリングな展開ですが、皆それぞれの忠義を貫いた結果とするのが、時代劇の真骨頂ですね。読者もまた「よき政とは何なのか」と問われているのです。

 

著者の第4作『霜月記』もまた「神山藩シリーズ」だそうです。時代も主人公も異なるものの、シリーズを貫く世界観は同じなのでしょう。既に第2作の『高瀬庄左衛門御留書』が2021年の直木賞候補となっていますが、著者の受賞も意外と近いのかもしれません。

 

2023/1