りぼんの読書ノート

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用心棒日月抄 刺客(藤沢周平)

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青江又八郎、みたび脱藩して江戸へ。藩主の毒殺を企んだ旧大富派を一掃し、藩政は安定を取り戻したかのように見えたのですが、大富家老はむしろ使い走りで、真の黒幕は、かつて藩主の地位を愚鈍な弟に奪われたことを恨みに思っていた、前藩主の弟で、現藩主の叔父にあたる人物・寿庵でした。(この設定、藤沢さんは結構好きですね)

今やお家乗っ取りの欲望をあらわにした寿庵は、藩の隠密組織である嗅足組を抹殺すべく、5人の刺客を江戸に放ちます。江戸屋敷の嗅足組はほとんどが女性であり、頭目の佐知は、かつて又八郎を幾度となく窮地から救った女性。嗅足組の陰の頭領として藩政に隠然たる力を持ち、また佐知の父親でもある谷口権七郎の依頼で、又八郎は江戸へと向かうのです。

本作のメインストーリーは、又八郎と佐知による5人の刺客との戦いであり、山田風太郎の「対決もの」のような楽しみに溢れていますが、その分、市井の人情を描く度合いが減ってしまったのは致し方ない所でしょうか。もちろん口入屋吉蔵の狸親父ぶりや、浪人仲間の細谷の自堕落ぶりも健在ですけど。そうそう、終盤になって細谷の仕官話も持ち上がります。

著者は、自ら生み出した佐知という女性に、魅力を感じたのでしょう。初作ではチョイ役、前作でも準主役にすぎなかった佐知に、又八郎と並ぶ主役級の活躍をさせるのですから。その分、又八郎との切ない交情の描写も一段と生き生きとしてきます。使命を果たして帰藩する又八郎と佐知の別れのシーンの切なさは絶品!

このシリーズ、本書で完結と思った方も多いでしょうし、著者もそのつもりだったのかもしれません。最終作の『凶刀』が書かれたのは、8年後だったのですから。

2011/5再読