藩主毒殺の陰謀を企んだ家老の大富丹後が、中老・間宮によって討ち取られたことによって帰参が叶い、許婚の由亀とも結婚できた青江又八郎が、再び江戸に向かうハメに陥ります。
大富丹後の変わり者の甥で剣鬼の静馬によって、一味の連判状が藩外に持ち出されたために、処分が不十分で残存勢力が温存されたままであることに加えて、公儀隠密も連判状を狙っているというのです。藩内部の不和が知れたら、おとり潰しもあるのですから、一大事。使命を公にすることもできず、脱藩の形を取らざるをえません。浪人生活の再開です。口入屋の吉蔵や、浪人仲間の細谷など、旧知のメンバーも再登場。
前作では赤穂浪士の動向が物語の背景となりましたが、本書での、青江、静馬、公儀隠密の三つ巴の闘いを彩るのは、藩の隠密組織である嗅足組の江戸屋敷における頭目である佐知。前作の最終話で女刺客として登場した人物ですが、本書では青江を助けて・・というよりも、浪人生活に追われる青江よりも前面に出て、静馬の探索、公儀隠密との戦いに飛び込んでいくんですね。
文字通り生死をともにする２人の間に芽生えた、心情的には激しく、行動としてはあまりに控えめな恋心は、最終作の『凶刀』までの主題となっていきます。まるで恋愛小説ではないかと思えるような箇所もあるのですが、もともと清廉潔白な性格で妻を娶ったばかりの又八郎と、武家の娘で己を厳しく律している佐知のことですから、むしろもどかしいほど（笑）。
同じ主人公の同じような生活を描きながら、全く異なるテーマを打ち出すというのは、シリーズものの醍醐味ですね。
2011/5再読
