りぼんの読書ノート

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用心棒日月抄 凶刀(藤沢周平)

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「3部作」と思われていたシリーズでしたが、8年後に第4作が出版されました。この間に蝉しぐれ三屋清左衛門残日録を書いて、円熟味を増した藤沢さんがどうしても締めくくりを書いておきたかった作品なのでしょう。

前作用心棒日月抄 凶刀から16年後、40歳を超えた青江又八郎は恰幅の良い中年となっていて、妻の由亀との間に生まれた息子も大きくなっています。藩の要職である近習頭取の職に就いていましたが、藩は隠密組織である嗅足組の解散を決定。青江は指令を江戸屋敷に伝える公務を担って、江戸に向かうことになります。

今回は脱藩浪人ではないんですね。久々に再会した佐知も40歳近くなっているはずですが、相変わらず美しいまま。美女は年を取らないのか・・(笑)。ただ、今回の任務も軽いものではありませんでした。
2人とも嗅足組の解散を巡る暗闘に巻き込まれていくのです。

シリーズを締めくくる本書では、「人生」というものを考えさせられる場面が多くなります。青江もかつての剣士仲間も後継ぎの心配をするようになったり、老いた口入屋吉蔵の娘は結婚しているあたりは微笑ましいのですが、痛々しいのは浪人仲間だった細谷です。傍若無人な性格からせっかく得た仕官をしくじり、貧しさの中でもかいがいしかった妻は数年前に狂死。ほとんどアル中になって、荒んだ生活に陥っているんですね。ただ、嫁いだ娘が時おり世話しに来ているようで、決して暗いだけではないのが救いです。

もちろん青江と佐知の関係も、「人生」を見据えたものとならざるを得ません。シリーズを通じて、物語の終盤での2人の別れが叙情性をかきたてていましたが、本書ではそれがいっそう切ないものとなる・・かと思ったら、将来への希望を感じられる仕掛けがありました。良かった・・。

小説としては、赤穂浪士の物語が底辺に流れる第1作の出来栄えが際立っていますが、青江と佐知という主人公たちの行き方に惹かれた読者は、ここまで読むべきですね。第1作から数えて13年、藤沢さんが愛した作品であり主人公たちだと思います。

2011/5再読