豊後羽根藩シリーズの第4作にあたる本書は、前作『春雷』の直接の続編にあたります。かつて「鬼隼人」と呼ばれて苛烈な改革を断行し、死をもって藩主を諫めた前家老・多聞隼人にゆかりある人々に、またも災難が襲い掛かってきます。
前藩主に虫けらのように殺された幼い娘の菩提を弔いつつ、遺された欅屋敷で孤児たちを見守る隼人の元妻女の楓。その周囲で彼女を助ける、かつて隼人とともに改革にあたった異端学者の千々岩臥雲や修験者の玄鬼坊ら。しかし隼人によって旧悪を難じられて隠居に追い込まれた前藩主・兼清は、彼女らを逆恨みして抹殺を企んでいました。
折しも幕府巡見使が羽根藩に派遣されることとなり、藩政の旧悪を暴かれることを恐れた現家老の児島兵衛は、欅屋敷にひとりの人物を送り込みます。その青年・草薙小平太は、本来であれば隼人を恨んでも不思議ではない生い立ちの持ち主だったのですが、ともに暮らす中で楓たちに好意以上のものを抱いてしまうのでした。はたして彼らの運命は・・。
本書のタイトルは、悪役として描かれる家老・児島兵衛の「秋霜のごとくひとに苛烈にあたるからには、おのれにも厳しくあらねばなるまい」との言葉から採られています。藩を守るために自らの命をかけて策謀を巡らせた児島兵衛こそが、本書の裏主人公なのでしょう。目指す目的は異なるものの、彼の生き方は多門隼人とも通じるところも大きいのです。
2019/11