独特の感性で古典を読み解き、ゆかりの地を歩き回った著者が、倭建命、在原業平、小野小町、建礼門院、平維盛、花山院、世阿弥、蝉丸、継体天皇、惟喬親王らの「正史に載らない姿」を描き出していきます。もちろん検証など不可能であり、むしろ創作に近い解釈も多いのですが、「この人にはこうあって欲しい」との想いが、すんなりと心に染み入ってきます。
白鳥となって世を去った倭建命を追っていく妃たちの姿を「道行」と捉え、在原業平の「心あまりて言葉たらず」の余情こそが日本美の原典と唱え、晩年の小野小町の零落伝説に「美女への意趣返し」を見て取る感覚はさすがです。
中でも、平家滅亡後に大原に籠った建礼門院を訪ねる後白河法皇には、彼女に対する恋心があったのではないか、また建礼門院もそれを憎からず思っていたのではないかとの解釈には、感心するというより、むしろ感動を覚えます。不幸な女性の晩年を彩る出来事があっても良いのです。
さらには平維盛の最後を補陀洛寺渡海伝説と結びつけ、乱心を理由に出家を強要された花山院を西国巡礼の祖と称え、世阿弥の本質を「旅の芸術家」と評するに至っては、古典芸能への造詣を超える感性のひらめきすら感じてしまいます。『かくれ里』と並ぶ著者の代表作でしょう。
2019/11