りぼんの読書ノート

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サハマンション(チョ・ナムジュ)

『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者が、その前から書き始めていたという作品です。舞台は近未来の架空の都市国家ですが、その格差社会のあり方はもちろん現在の韓国の状況が反映されています。

 

何十年も前に独立したという都市国家「タウン」の前身は、企業に吸収された自治体です。系列企業に勤めて専門的知識や資本を持つエリート層にとっては、世界一安全で豊かな国なのですが、当然それ以外の人々もいるのです。中でも住民資格を持たない最底辺の貧困層の駆け込み寺となっているのが「サハマンション」。香港の九龍城をモデルとし、厳しい自然環境下にあるシベリアのサハ共和国をイメージしてつけたネーミングのようです。

 

ここで暮らすのは、かつて企業の研究員であった管理人のじいさま、元助産師で住民すべての分娩を引き受ける花ばあさん、医師免許をはく奪されながらもマンション内で医療行為を行うスー、病気で視力を失いながらもバーで働くサラ、胎児に致命的な影響を及ぼした30年前の感染症を生き延びたウミ、ワケアリ移民の姉弟ジンギョンとトギョンなど、個性的な人々ばかり。ディストピアの底辺で支え合って生き延びているのですが、サハマンションの撤去が決定されてしまいました。折しもトギョンにスー殺害の疑いがかけられて警察も踏み込んでくる中で、彼らに未来はあるのでしょうか。

 

医療に関わる登場人物が多いのは偶然ではありません。冷酷な格差社会においては、医療をはじめとする社会保障の欠如が生命に直結する問題なのです。フェミニズム上の課題である堕胎との関連も無視できません。「タウン」の支配に風穴を空けるような未来が示唆されるラストには、著者の希望が込められているのでしょう、

 

2023/1