りぼんの読書ノート

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信長の血脈(加藤廣)

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著者のデビュー作かつライフワークである『本能寺3部作』の取材から派生したアイデアながら、本編には書き込めなかったテーマを集めた短編集。「信長の血脈」という書名ではあるものの、同名の作品はあいません。 第三編「山三郎の死」の隠れテーマではあるのですが、著者は「戦国残照」とするつもりだったそうです。

「平手政秀の証」
信長の傅役であった次席家老は、信長の素行を諌めるために自死したとされていますが、その時の信長はすでに20歳。今さらそんなこともないだろうという疑問が書かせた作品です。織田信秀の急死後に起こりかけた織田家家督争いに決着をつけさせるためという新解釈ですが、どうなのでしょう。

伊吹山薬草譚」
伊吹山に南蛮薬草が数種自生しているという話題と、キリシタン宣教師から信長に薬草園開設の嘆願があったらしいという資料を結び付けて、出来あがった作品です。当時から今に至るまで、南蛮薬草がほとんど見捨てられているのは、魔女狩りによって生薬調合技術が途絶えたからではないかという推論も楽しい作品です。

「山三郎の死」
「秀頼の本当の父親はだれか」という重いテーマを追求する役目を、気弱な片桐且元に負わせてしまったのは、絶妙ン配役です。出雲阿国を妻として、関ヶ原後に森忠政に仕えた名古屋山三郎が斬殺された事件は、いかにも胡散臭いのですが・・。秀頼の父親は誰であっても、織田家の血筋であることには間違いありません。

「天草挽歌」
意外なテーマですが、明智左馬助の息子とも伝えられる三宅重利が主人公。唐津藩に仕え、島原の富岡城代を勤めたものの、「天草の乱」の初期にあえなく戦死した人物です。徳川政治とキリシタンの間に立って、無難無事を望んでいた男に降りかかった悲劇として描かれた作品です。

2017/3