りぼんの読書ノート

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お伊勢ものがたり 親子三代道中記(梶よう子)

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頼りにならない新米の御師に案内されて、親子三代の武家の女性がお伊勢参りに向かう道中記。夫に先立たれた祖母のまつは、平凡な人生から逸脱して老後生活を実りあるものとする手始めにお伊勢参りを決意します。婚家で理想的な嫁を演じている娘の香矢は、二条城在番として京都の単身赴任中の夫への密書を夫の同僚から託されます。そして組頭の嫡男との縁談が起こっている孫娘の雪乃にも、何か思う所がありそうです。 

 

もちろん片道20日以上もかかる当時の旅は、思うようには進みません。悪天候や、川止めや、予約ミスや、怪我などのトラブルは当然ですが、なんといってもどのような人と出会うのかが、旅の成否を大きく左右したのです。一行が出会ったのは、巾着切りの若い女。不審な行動をとる老いた浪人者。犬を相棒にした抜け参りの子ども。病をおして先を急ぐ町人者。貧しい藩から輿入れに向かう姫君。これはもう、さまざまな人生の縮図ですね。 

 

これらの出会いが、祖母の、母の、孫の人生を変えていくのです。いつしか新米御師もたくましくなりました。そして40年後、国家神道を整備する明治政府によって御師職が廃止されようとしている中で、今や老齢となったかつての新米御師は最後の旅の案内に臨むのですが・・。 

 

詳しくは記せませんが、「東海道中膝栗毛」をはじめとする旅物語の要所や舞台が、本書のエピソードの中にも散りばめられています。この著者は執筆に際して常に丹念に調査しているので、読むほうも注意が必要なのです。 

 

2020/9